2018.01.21

「作家は2作目で苦労する?」紗倉まな✕羽田圭介、注目作家ふたりの凸凹対談【後編】


「モノづくり大国」と言われる日本。その中でも「エロ」は世界でも有名。そんなアダルト業界で、自らを「えろ屋」と称しAV女優として活躍する一方、小説家としても活動する紗倉まなをホストに、文化やエンタメを支える様々な「クリエイター」をゲストにお届けする、『紗倉まな対談企画 モノづくり大国♡ニッポン』。

第4回目は、「スクラップ・アンド・ビルド」で芥川賞を受賞したことでも有名な、小説家・羽田圭介さんをゲストにお届けします。

◆次の作品のテーマは“ハゲたおじさん”と“オープンカー”!?

紗倉:羽田さんは、介護とかゾンビとか毎回いろんなジャンルやテーマで作品を書かれていますよね。私はその切り替えができなくて、自分の限界を感じてしまうことがあるんですが、そういうところは苦労されたりしないんですか?

羽田:「いろんなことを手広くやってる」と言われることもあるんですが…どうなんですかね?

紗倉:ご自身はそのようには思わない?

羽田:題材やテーマを要約すると変わったことを書いてるように見えるかもしれないけど、描き方とかはそんなに変わっていないんじゃないかなと思うので。自分の中ではバラバラなことをやっているような気はしてないですね。



紗倉:「コンテクスト・オブ・ザ・デッド」が発表されたときに「次はゾンビなんだ!」って驚きました(笑)。ちなみにどうしてゾンビだったんですか?

羽田:世の中には、生きているのに死んでる感じのする人やシステムがたくさんあるように感じて。それを風刺するような感じで、ゾンビを書こうかなって思ったんです。作中に、フラフラ歩いてくる人に対して「あんた、生きてるのか死んでるのかわかんねぇよ」って言うシーンがあるんですが、このシーンを最初に思い浮かべましたね。

紗倉:うっかりウォーキングデッドを思い出してしまいました…。そんな深いテーマがあったんですね。ちなみに、これから書きたいテーマとかって決まってたりするんですか?

羽田:次は、30代半ばでいきなり高級車を買った男の話を書こうかなって思ってます。

紗倉:また、おもしろい内容ですね(笑)。でもなぜ高級車に目をつけたんですか?

羽田:高速道路とかでかっこいいオープンカーが走ってて、「どんな人が乗ってるんだろう?」って見てみると、だいたいハゲたおじさんなんですよ。しかもほとんどが一人で乗ってる。

紗倉:なんだかわかるような…わからないような…。



羽田:もっと若くてかっこいい人とか美女が乗っていればいいのに。きっと今の若い人はそういうのにかっこよさを感じないんですよね。それが、今の日本にときめきがない感じがして、これは小説のテーマになるなって思って。

紗倉:なるほど。

羽田:そのおじさんたちは、数百万、数千万もするような車に、自分なりにかっこつけて乗ってると思うんですよ。でも一人で乗っているということは、家族や友達にその価値を認めてくれる人がいないってことで。

紗倉:そう考えると、ちょっと切ないですね。

羽田:そこなんです。自分が見てほしい姿を見てもらえないさみしさっていうのは、ハゲたおじさんがオープンカーに一人で乗ってるというのが一番わかりやすいだけであって、あらゆる世代や性別の人にもあることだと思うんです。そういう部分をつなげて書きたいなと思っています。

紗倉:ハゲたおじさんとオープンカーからそこまでテーマを広げられるとは…観点が本当にすばらしいです。いつか読むのが楽しみです。

◆嘘は言わないけど、文体を読者に寄せることはある



羽田:車で思い出したんですが、紗倉さんの「凹凸」の中に“CR-V”っていう車出てきますよね。なんでこの車種なんだろうって不思議に思ってて。

紗倉:…あー!(笑) 私、昔から四駆車が好きで…(笑)。車の後ろにタイヤが付いているフォルムが、リュックを背負ってるみたいでかわいいなって思ったんですよ。父親にそれを話したら「それならCR-Vがいいぞ!」って教えてもらって。そこから「車といったら四駆、四駆と言ったらCR-V」というイメージがついて、小説にも登場させてみました。

羽田:今CR-Vに乗ってるんですか?

紗倉:それが乗ってないんです(笑)。羽田さんは車お好きなんですか?

羽田:実は最近、買う車を探すため、ディーラーで試乗しまくってるんですよ。

紗倉:へー!気になります、そのお話。

羽田:週刊プレイボーイで、「羽田圭介クルマを買う」っていう連載をやってるっていうのもあるんですが。試乗できる店まで自転車で十数キロ走って行ったりしてます。



紗倉:ガチじゃないですか(笑)。羽田さんに合ういい車が買えるといいですね…。連載と言えば、羽田さんは、エッセイを書くときと小説を書くときで、文体とか表現方法とか変えるように意識されてますか?

羽田:似るときもあるんですが、最近は離れてきた感じはありますかね。

紗倉:小説のようなエッセイもあるし、エッセイのような小説もあるし。その辺の境目ってぼやけてますよね。書く人によってここはだいぶ違うのかなって。

羽田:確かにそこは難しいですよね。僕の場合は、媒体によって文体を変えるようにはしてますけど。例えば「週刊女性」のエッセイは、年配の女性にウケるように、空間描写はかなり省き、ちょっとかわいげのある文体にしてます。

紗倉:寄せてる(笑)。

羽田:書いてることは真実なんですけど、文体は作ってるな~って感じしますね(笑)。

紗倉:リップサービスならぬ文体サービスですね(笑) 。でもこれもテクニックのひとつですよね。

羽田:けっこう世間の人って、そういうイメージを簡単に信じるみたいなんで。

紗倉:たしかに。いろいろと読み比べてもらいたいですね。

◆メディアに出る方がプラスになる!…はず?



紗倉:羽田さんが、「テレビに出ると小説が売れるから嬉しい」と話してるのを以前聞いたことがあります。

羽田:言ってましたね(笑)。実際、テレビに出始めたときは売り上げに影響がありました。

紗倉:テレビに出る意図を公言しちゃうところが、潔くてかっこいいなぁ…と。

羽田:美少女作家でもない僕が本を売るには、テレビで売り出すのがいいのではと思って。

紗倉:テレビに出ることに抵抗はなかったんですか?

羽田:抵抗はなかったです。でもやっぱり最初はすごく緊張したので、収録後はどっと疲れてました。あとは、変に編集されて嫌だなってこともあったし。

紗倉:それでも出演しようと思ったのは、それ以上のメリットがあったから?

羽田:芥川賞を受賞するまでの5年間は、メリハリのない専業作家生活を送ってたので。刺激のある生活のほうが、ネタとして吸収できるような気はして。そういうことも含めて引いた目で見たときに、メディアに出た方が自分のプラスになるんじゃないかなと思ったんです。

紗倉:その時の選択は間違っていなかった感じはしますか?

羽田:んー、わかんないですね(笑)。テレビしか見ない人もいるだろうし、逆にテレビで僕のキャラを知った気になって作品を読まなくなった人もいるだろうし。どっちがいいかは今はまだわからないかな…。



紗倉:でも、「成功者K」はメディアに出た収穫のような作品ですよね!

羽田:そうですね。「成功者K」のような作品を書きたいという構想があったのも、メディアに出る理由の一つでした。やっぱりこの目でそういう世界を見た方がリアルなものが書けるし、取材も兼ねて出てみようかなって。

紗倉:タイミングもよかったんですね。

羽田:そうですね。又吉さんと一緒に受賞しなかったら、テレビの取材も来なかっただろうし。偶然がきっかけになった部分は多い気がします。

紗倉:私が言うのもおこがましいですが、運も実力のうちと言いますから…!

◆ただのケチ心が仕事に繋がった

紗倉:小説以外にもこれから挑戦していきたいことってありますか?

羽田:今年の夏にミュージカルに出演させていただいたんですが、そこで出会った女優さんとミニライブを行う予定があって。なので、歌練習しなきゃな…って思ってます。

紗倉:すごい!本当に多才ですよね。もともと歌うのは得意だったんですか?

羽田:声楽をやってました。19歳ぐらいのときにR&Bシンガーになりたいなと思って。

紗倉:へー!でも、ポップスでなく声楽を勉強されたんですか?



羽田:通ったボイストレーニングの教室がたまたま声楽中心で。けっきょくポップスじゃなくて、マイクなしのクラシックが歌えるようになりました(笑)。

紗倉:最初の目的、どっかいっちゃいましたね(笑)。羽田さんは、興味のあることがたくさんあるんですね。

羽田:そうなんですかね。でも、昔から惰性で続けていたことも、10年ぐらい経ったときに意外なところで仕事に繋がったりするもんなんだなっていうのは最近よく感じます。

紗倉:他にも仕事につながったことがあるんですか?

羽田:例えば、芥川賞を受賞する前の時代は、節約のために鶏肉料理ばかり自炊してたんですよ。鶏肉が食べたいんじゃなくて、ただケチだったから。あと、自宅で腕立てをするのも日課にしてて。受賞後、そんな僕の生活が「おもしろい!」ってなって、何度もテレビで取り上げられるようになったんです。しかたなくやってたことなのに、こんなにお金もらえるんだ!ってびっくりでした(笑)。

紗倉:私が拝見した番組もまさにそれですね。そんな風に鶏肉のことが注目されるなんて思いもしなかったわけですもんね…(笑)。今も鶏肉料理作られることあるんですか?

羽田:今はもっといい肉食べてます。豚肉や牛肉とか。

紗倉:正直!!

羽田:お金もらえるんで再現してたけど、その頃はテレビ局のお弁当を食べられるようになっていたので…撮影してる時期にはすでに鶏肉には飽きてたんですよ。「鶏肉なんてパサパサしておいしくないな」なんて思ってるぐらい(笑)。

紗倉:鶏肉への熱は冷めたんですね(笑) あはは。裏話を聞いちゃいました(笑)。

羽田:最近はまた鶏肉に回帰してきましたけど。ところで紗倉さんは今後やってみたいこととかあるんですか?



紗倉:私はこの業界しか知らなくて、井の中の蛙状態だなってよく思うので…。もっともっといろんな経験をしてみたいです。荒波に揉まれたい!

羽田:世間の人が荒波に揉まれてるかって言ったら、必ずしもそういう訳でもないんじゃないですかね。あまり人がやらないような職業に自発的に挑戦されている紗倉さんは、十分荒波に揉まれてると思いますよ。

紗倉:そうなんでしょうかね…。だとしたら、エロい波だけです…。 

◆もし今の仕事をしていなかったら

紗倉:羽田さんは小説家以外でやってみたい仕事ってありますか?

羽田:えぇーなんだろう。17歳でデビューしたのもあって、会社員ぐらいしか思いつかないかも…。紗倉さんはありますか?

紗倉:精神状態は今の自分のままで、ビヨンセのような肉体を与えられていたら、スーパースターになりたかったです。

羽田:ビヨンセのような肉体って(笑)。歌唱力とかも含めて?

紗倉:はい、あの豊満なボディと能力があったら絶対スーパースターになってました(笑)。等身大の私の夢で言ったら、壁とかの塗装をやりたいですね。

羽田:次は塗装!?意外すぎるんですけど!



紗倉:まず、あの匂いが好きなんですよ。あとは均一に塗り続けるという作業に魅力を感じて。あの作業をずっと続けていたら何かに悟りそうじゃないですか?“〇〇屋”みたいな、職人的な仕事をしたいですね。

羽田:今は“えろ屋”ですよね。

紗倉:“えろ屋”って言ってはみたもののあまり浸透しなくて。

羽田:(笑)。AV女優と小説を書くというのは、どこか共通する部分ってあるんですか?

紗倉:AVは一人ではできないですが、“自分次第で作品が変わる”という部分では、小説と同じような「一人作業」の一面も持ち合わせてる感じはします。

羽田:紗倉さんは一人作業が好きなんですか?


紗倉:私は昔から協調性がないほうで、気質的に「一人で何かをする」ということが向いてると思ってます。AVと書きものをしているとき以外の自分は、どこか無理をしているというか…普段の軸から少しずらしているような話し方をしていたり、どこか自分じゃないような感じがするんですよね。羽田さんは、メディアに出演されているときは素でいることが多いんですか?

羽田:わりと素だと思いますよ。

紗倉:羽田さんは、みんなは笑っている中、一人だけクールな表情でいるイメージがあります。そんな羽田さんが私は好きです(笑)。

羽田:最近はわりと「ハハハー」って声出して笑ったりしてますけどね(笑)。番組が僕に何を求めてるのかを考え始めたらよくわかんなくなっちゃいます。

紗倉:リップサービスをされることはあるんですか?

羽田:雑誌とかのインタビューで、向こうがほしいフレーズを言わないと永遠と同じ質問を繰り返されることがたまにあるんですよね。それに気づいたら、向こうが求めている答えをするようにはしてるかな。でもそれはリップサービスと言うか、早く終わらせて帰りたいからなんですけど。

紗倉:自分のためなんですね(笑)。メディアのお仕事で、これは嫌だったなっていうお仕事とかってありました?



羽田:あんまり変な依頼は来ないので、それはないですかね。でも、ロケとかで一般の方に勝手に写真をバシャバシャ撮られるのは嫌ですね。やっぱり本業じゃないので耐性がついてないというか…。タレントの皆さんは動じていないので、こなしてきた場数の多さを感じさせるというか、やっぱりプロだなって感じました。

紗倉:プライベートでも気づかれることも多いんじゃないですか?

羽田:普段は殺人鬼みたいなかっこうしてるので大丈夫です。

紗倉:殺人鬼!!

羽田:帽子とマスクで。お店の人とかにも、怪しいとは思われてるだろうけど、誰かはわかってないと思います。

紗倉:ある意味目立ちますよね。でもそれが羽田さんっぽいのかもしれません(笑)。

◆対談を終えて

紗倉:お聞きしたいことがたくさんあったので、一瞬で終わっちゃいました!すごく楽しかったです!

羽田:よかった(笑)。僕も楽しかったです。

紗倉:でも緊張しすぎて、脇とおしりにめちゃくちゃ汗かきました。

羽田:そうだったんですか?(笑)

紗倉:本を読んでくださっていたことと、ラジオを聞いてくださってたことが嬉しすぎて…!思い出す度に、泣くかにやけるか、どちらかになると思います(笑)。特に「TENGA茶屋」の話をしてくださった方は初めてだったので、震えました。

羽田:ラジオで聞いてたので、対談が始める前に紗倉さんの笑い声が聞こえて来て「あぁー!本物だー!」って秘かに感動してたんですよ。

紗倉:えー本当ですか!今までこの不気味な笑い声で得したことあんまなかったんですけど、初めてこの声でよかったって思えました(笑)。最後握手していただいてもいいですか?

羽田:もちろん。≪握手≫ えっ、あ、めっちゃ握力強いですね!

紗倉:つい想いが出ちゃいました(笑)。ありがとうございました!



(石部千晶:六識/ライター)
(渡邊明音/撮影)
(KANAKO/ヘアメイク)
(ハウコレ編集部)

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