2018.01.19

「作家は2作目で苦労する?」紗倉まな✕羽田圭介、注目作家ふたりの凸凹対談【前編】

「モノづくり大国」と言われる日本。その中でも「エロ」は世界でも有名。そんなアダルト業界で、自らを「えろ屋」と称しAV女優として活躍する一方、小説家としても活動する紗倉まなをホストに、文化やエンタメを支える様々な「クリエイター」をゲストにお届けする、『紗倉まな対談企画 モノづくり大国♡ニッポン』。

第4回目は、「スクラップ・アンド・ビルド」で芥川賞を受賞したことでも有名な、小説家・羽田圭介さんをゲストにお届けします。

◆作品に実体験を盛り込むことも

紗倉まな(以下、紗倉):今日はよろしくお願いします!以前、羽田さんの日常を追う密着番組を観たことがあって。その中で自宅ですごく筋トレをされてたので、「羽田さんと言えば筋肉!」っていうイメージがすごく強いんです。

羽田圭介(以下、羽田):芥川賞受賞直後ぐらいの話ですね(笑)。最近は筋トレできてなかったんで、こんなに太っちゃったんですが…。でもつい最近、人生で初めてきちんとジムに通いはじめたんですよ。昨日も行って来て、今も筋肉痛です(笑)。

紗倉:本格的に始められたんですね…!芥川賞を受賞された「スクラップ・アンド・ビルド」に筋トレのシーンがよく出てきたのは、ご自身が筋トレをしていたことも影響してるんですか?

羽田:それもありますね。あとは、当時は「治験」のバイトもしてて。作中にも治験の話が出てきてます。

紗倉:どうして治験のバイトを?作品に治験の話を出したくて、実際にやってみようと思ったんですか?

羽田:いえいえ。全然お金が無かったので、単純にお金が欲しかっただけです(笑)。治験のバイトは、4泊5日を2回+通院2回ぐらいで25万円もらえるんですよ。



紗倉:へ~、そんなにもらえるんですね。泊まりということですが、その間執筆活動はできるんですか?

羽田:日中はわりと自由な時間があったので、空き時間に集中して書いてました。ただで健康診断もできるし、カンヅメ部屋的に集中して本も書けるし、お金ももらえるし、よかったですよ。

紗倉:羽田さんにとっては意外といい環境だったんですね(笑)。筋トレとか治験とか、「スクラップ・アンド・ビルド」には、実体験が元になっている部分も多いんでしょうか?

羽田:確かにそういう部分もあるけど、介護や医療関係の文献も20冊ぐらい読んで勉強しましたよ。僕はわりと取材をして書くタイプなので。調べた痕跡は消すのがプロだと思っています。

紗倉:そんなに勉強もされるんですか…!「スクラップ・アンド・ビルド」のテーマは介護でしたが、それも身近にある問題だったんですか?

羽田:僕の両親が実際に老々介護をしていて。実家に帰る度に、介護される祖母の愚痴も、介護してる母の愚痴も、両方聞かされてたんです。その愚痴を聞いているうちに「介護の問題をモチーフとして扱い小説にできるのでは?」と思うようになって。




紗倉:なるほど。深刻な問題ですね。羽田さんは、小説の大きなテーマが決まったら、細かなプロットをしっかり立ててから書き始めるっていうスタイルですか?それとも書きながら考えていくタイプですか?

羽田:設定は細かく書き出します。例えば「スクラップ・アンド・ビルド」だったら“死にたがる老人とそれを助ける孫”というアイデアがまずあって、そこから、キャラクターの年齢や経済力、環境などいろんなことを出して土台を整えていく。で、そこからは先の流れはきっちりとはかためずに書き始める感じですね。

紗倉:羽田さんの小説の登場人物はみんな個性がたってますよね!セリフひとつとっても、そのキャラクターの人間性がよく表れていて。それも、最初に細かく設定をされているからこそなんですかね。

羽田:そう感じてもらえるのは嬉しいですね。小説を書く過程で、登場人物や舞台の設定を考える作業が一番好きかもしれないです。

◆作家は2作目で苦労する!?

紗倉:最近読んだ本ってありますか?

羽田:紗倉さんの「凹凸」を拝読しました。

紗倉:わぁぁ!!本当ですか!?ありがとうございます。親戚に自慢できます。

羽田:純文学作品なんですね。地の文を読む心地よさが継続していて、読み進めちゃいました。

紗倉:そんなありがたいお言葉…!!羽田さんが読んでくださったというのが嬉しすぎて…私、いま泣きそうです。

羽田:ははは。紗倉さんが出演されているラジオ「TENGA茶屋」も聞いてますよ。あれもおもしろいですよね。

紗倉:えぇぇ!!すっごく嬉しいです!ラジオでは、羽田さんの小説には出てこないような下品な内容ばっかり話してるので、ちょっと恥ずかしいですけど…!



羽田:僕の小説も、ほぼ全部の作品に“勃起したペニス”が出てくるんですよ(笑)。1冊だけたまたま出てなくて、熱心な読者さんから「羽田さんの作品なのに勃起したペニスが出てこない!」って指摘されて。それで僕も「あ、本当だ」って気が付いたんですが(笑)。

紗倉:むしろその1冊にはなんで出てこなかったんですかね(笑)。

羽田:僕も指摘されるまで全く気付かなかったから、きっと無意識に書いてるんでしょうね。「最低。」は紗倉さんの本業の“AVの世界”について、「凹凸」は“家族”について書いてましたよね。どうして二作目は“家族”をテーマに?

紗倉:実はもともと、家族の話を書きたいなと思っていたんです。温かい家族というよりは、冷めている、どこか欠如したような家族に惹かれるものがあって。でも初めての小説は、やはり自分の本職を題材にしたものの方がいろんな方に興味をもって手に取っていただけるのではないかという、担当編集者さんのお言葉もあって。

羽田:なるほど。僕自身もそうだったんですが、作家って二作目で苦労することが多いんですよね。でも、紗倉さんの「凹凸」にはそういう迷いが感じられなかったから、なんでかなと思ってて。その理由が今わかった気がします。

紗倉:私の中では「凹凸」のアイデアが先にあったので、それが影響してるんですかね?実際、「最低。」は書きやすくはあったんですが、個人的には「凹凸」の方がより密度の濃いものが書けたと思っていて。

羽田:本当に書きたかったテーマなわけですもんね。



紗倉:そうなんです。でも同時に、詰め込みすぎちゃったかなと思う部分もあって。読者の方からも、「苦しんで書いた感じがする」という感想もいただくほどだったので…。でも、羽田さんに「迷いがないように感じた」と言っていただけてすごく嬉しいです! 

◆自分で自分に純文学の教育を施した

紗倉:私は昔、本を読むのが嫌いだったんですが…。羽田さんは、昔から小説をよく読まれてたんですか?

羽田:そうですね。ただ、本好きの読書少年だったというよりは、仕方なく読んでたって感じです。

紗倉:仕方なく?

羽田:小学生の頃、無理やり中学受験をさせられてたんですよ。一応勉強部屋にはこもるんだけど、勉強はやりたくなくて。それで、「勉強するぐらいなら本でも読むか」って感じで読んでました。

紗倉:親にバレなかったんですか?

羽田:母親が近づいてきたら本を隠して勉強するふりしてたので。



紗倉:エッチ本みたいな扱い!(笑) 全然悪いことでもないのに…。羽田さんはどんな学生時代を送ってたんですか?

羽田:高校時代は、休み時間に廊下でバーリトゥードごっことか、殴り合いをしてましたよ。別に不良だったわけじゃないんですが、当時格闘技ブームだったんで。男子校だったってこともあって、回し蹴りしてる奴がいたり、友人のヒロシなんか目尻から流血したりしてました。

紗倉:ワイルドだったんですね(笑)。ポーカーフェイスでクールなイメージがあったのでなんだか意外です。

羽田:ポーカーフェイスというよりは、斜に構えてるような感じでしょうか。部活に一生懸命になるでもなくヘラヘラしてました。

紗倉:羽田さんが「黒冷水」でデビューされたのは、高校生(17歳)の頃でしたよね。感受性豊かな時期から小説を書かれてるので、いろんなことに影響を受けて、途中で作風が変わっちゃうことってありませんでしたか?

羽田:んー。全体を通せば変わった時期もありますが、デビュー作と最近の作品とは、似てる部分がある気がします。もちろんデビュー作のほうは稚拙な表現も多いんだけど、淡々と書かれているところは通じる部分があるかなと。

紗倉:変わった時期というのは?



羽田:新人賞には“純文学”系の賞と“エンターテインメント”系の賞があって。「黒冷水」はエンターテインメントの要素が強い作品ではあったけど、純文学系の賞に応募をして受賞したんですよ。だからそれをきっかけに、純文学を勉強しようと思って。それからは半ば強制的に純文学に染まろうとしてました。

紗倉:なるほど!それは文体とかも意識的に変わってきそうですね。

羽田:純文学文芸誌に掲載されて違和感のない文章は書けるようになっていきましたが、芥川賞なんかもとっちゃった今、書きたいように書こうとすると、エンタメ要素もある純文学作品になりがちですね。そういうのが好きなんでしょう。

紗倉:自分がもともと書きたかった文と、しっくりくる文が一緒というのは素晴らしいことですね。

羽田:それが自然なことなのかもしれないですよね。ただ、新人賞でデビューすると、二作目からはプロのアドバイスが入ってくるので。必然的に、一作目とは同じように書けなくなる部分があって。

紗倉:二作目からは編集さんが付くわけですもんね。

羽田:そうなんです。一作目は素人時代の作品だから、自分の思うように書けたわけだけど。二作目からは、ある意味教育されちゃうんです。

紗倉:作家さんの個性が失われてしまう可能性も?

羽田:教育を受けるのはいいことだとは思うけど、いろいろな知識を植え付けられる訳だから…その可能性もありますよね。で、作家はそこからまた“余分な方法論をはぎ取っていく”という作業をしていくんです。僕はその作業に10年ぐらいかかったかな。



紗倉:10年ですか!でもそうやってブラッシュアップしていくんですね。作品を作っていく中で、自分の中で“ここだけは残したい”っていう揺らぎない部分もあると思うんですが、そういうので編集者さんとモメることってあるんですか?

羽田:もちろんありますよ。小説の大きな要素が変わるような指摘が入ることもあるんで、「納得いかないな」って思うこともありますし。でもそのときは納得いかなくても、1年経ったときに「これでよかったのかもしれない」と考えがかわることもあったりして。どれが正解かなんてわからないなって思います。紗倉さんは編集者と衝突することありますか?

紗倉:衝突というか、辛辣なダメ出しされたことはありました。ものすごい落ち込んで…。部屋に閉じこもって誰とも連絡とらなくなったりするほどダメージは大きかったです(笑)。

羽田:意外!ラジオ聞いてると、お酒飲んで忘れちゃいそうなイメージだったから(笑)。

紗倉:いやいや、けっこう繊細なんですよ!(笑)

◆小説を書くのに会社員経験は必要ない

紗倉:羽田さんはどれくらいのペースで本を書かれてるんですか?

羽田:平均すると、年に1冊出すぐらいですかね。小説以外の仕事をしてると、「他の仕事にうつつ抜かしてるから小説の仕事がおろそかになってるんじゃないの?」とかよく言われるんですが、もともと遅いんです! 最近は忙しい中、昔と同じペースで刊行してるんで、むしろ書くのは早くなってるくらいですよ!

紗倉:でも私からしたら年に1冊でもハイペースな気がします。羽田さんはマネージャーさんをつけていらっしゃらないそうですが、自分で管理してお仕事をするって大変じゃないですか?

羽田:最近はそんなに苦労してないですよ。大学卒業後、会社員を1年半ぐらいやってから専業作家になったんですが、その会社を辞めてから芥川賞を受賞するまでの専業作家時代の約5年間はけっこう大変でしたけどね。

紗倉:どう大変だったんですか?

羽田:全部自分次第だから、厳しく管理しないと生活にメリハリがつかなくなっちゃって。だらけずに書き続けるというのはなかなか苦労しました。逆に芥川賞をとってからは、空いてる時間に集中して書くしかなくなったので、意識しなくても管理できるようになった感じはしますね。



紗倉:生活にメリハリがないって、精神的にも辛いですもんね。会社に勤めていたということですが、そのときの経験って小説に活かされたりするものなんですか?

羽田:うーん。例えば会社員を何年もやっていたら、その内容で数冊はネタとして使えるかもしれないけど…。それが小説の根本的な部分に関わってくるかといったら、そうではない気がします。

紗倉:なるほど。私は社会人経験がないので…。そういう経験をしてた方が視野が広くなって、小説を書く時の引き出しが増えるのかな?なんて勝手に思ってました。

羽田:現に、学生時代にデビューして就職せずに作家になった方もたくさんいるし、その方たちの小説っておもしろかったりするんで。会社員生活が重要かって言ったら、そうではないのかなって僕は思いますね。本を読んで勉強することの方がよほど重要。

紗倉:なるほど。ちょっと安心します。

羽田:でも僕も1年半ぐらいのなんの責任もないときに辞めてるんで、わかんない部分もありますけどね(笑)。10年20年務めて、会社の仕事とかで遊べちゃうような余裕が出てきた人が書いた小説は、それはそれでおもしろそうですよね。

紗倉:確かに。一概に経験だけでなく、その人の感性で書ける部分というのはやはり大きいのかもしれないですね。


(石部千晶:六識/ライター)
(渡邊明音/撮影)
(KANAKO/ヘアメイク)
(ハウコレ編集部)

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