「昨日の写真、お箸が2膳あったよね」単身赴任の夫に電話で聞いた私→返ってきた「菜箸」という答え

コラム

台所の引き出しを開けると、レシピのノートはいつもの場所にありました。夫が自分で作ったとは思えない肉じゃが。私は「誰か来てたの?」と打ち込んで、送らないまま消しました。

洗い物の途中で、シンクの横に置いたスマホが一度だけ震えました。夫から届く、いつもの夕飯の写真です。ところがその日は、画面を拡大したまま、蛇口の水を止めるのを忘れていました。

見慣れない鍋と、見慣れた味付け

夫が単身赴任に出て、3か月になります。出発の前の日、荷造りの手を止めずに夫が言ったのは「飯なんてどうにでもなる」でした。実際、送られてくる写真はコンビニの弁当か牛丼ばかりで、私も「ちゃんと食べてるね」と返すのが習慣になっていました。

その日の写真は、違いました。テーブルの真ん中に置かれた鍋。中身は肉じゃがで、じゃがいもの大きさも、しらたきの入れ方も、家で作る肉じゃがによく似ています。そして鍋の横に、同じ柄の箸が2膳、きれいにそろえて並んでいました。夫の向かいに、箸を持つ誰かがいる。その考えが、洗い物中頭から出ていきませんでした。

洗い物を終えてから、いつもと同じ短い返事だけを送りました。それ以外は、何も打ちませんでした。

引き出しの中のノート

布団に入ってからも、何度も夕飯の写真を開きました。同じ柄の箸。夫の部屋に、箸が2膳ある理由。取引先の人、職場の後輩、近所の人。写真に写っていない相手を、勝手に考え続けました。

起き上がって、台所の引き出しを開けます。結婚のときから書きためているレシピのノートは、いつもの場所に入ったままでした。夫はこのノートを持っていかなかった。つまり、あの肉じゃがを私の味に寄せて作れる人は、この家の外にはいないはずでした。

スマホを手に取り「誰か来てたの?」と打ち込みます。送信の前で指を止め、全部消しました。聞けば、考えたくなかった答えが返ってくるかもしれません。過去の写真を最初までさかのぼり、弁当の容器ばかりを数えているうちに、窓の外が明るくなっていました。

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「菜箸」という答え
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