
「これ、動かしていい?」妻の物に触れる前に、俺が必ず聞くようになったわけ
コラム
妻が友人の家から車に乗って帰ってきてから、仲間内のチャットで俺に声がかかることは減っていきました。誘いの連絡が来ないまま、休みが過ぎていきました。
居酒屋のテーブルで、友人が中古車サイトの画面をこちらに向けました。通勤用に、安い車を探しているのだと言います。俺の頭に浮かんだのは、ここしばらく駐車場で止まったままの妻の軽自動車でした。
「奥さん、いいって?」
「奥さん、いいって?」
話がまとまりかけたところで、友人にそう聞かれました。俺は「うん、大丈夫」と答えました。妻に聞いていないことは、自分がいちばん分かっていました。
妻は最近電車で通勤していて、車の出番はほとんどありません。乗らない車を置いておくより、使う人に渡したほうがいい。家族の物なら、あとで言えば済む。俺はずっと、そういう扱い方をしてきました。妻の傘を物置に移したときも、文庫本を段ボールに詰めたときも、聞かずに済ませていたのです。
妻が仕事に出ている間に、駐車場で友人に鍵を渡し、代金の入った封筒を受け取りました。封筒はテレビ台の引き出しに入れました。
妻に渡した封筒
帰ってきた妻は、部屋に入るなり「車がないんだけど」と言いました。
「あいつが欲しいって言うから、譲った」
「私の車だよ。どうして先に聞かないの」
「最近乗ってなかったし、いいかと思って」
リモコンをテーブルに置き、妻の顔から目をそらしました。
「封筒、出して」
引き出しから封筒を出して渡すと、妻はそれを自分の鞄にしまいました。次の日、妻は1人で友人のアパートへ行き、軽自動車に乗って帰ってきました。部屋に戻った妻が言ったのは、「返してもらってきた」の一言だけでした。
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届かなくなった誘い



























