
「もう潮時なんだよ」と笑った八百屋のおじさんが、最終日に手渡してくれた紙袋の中身
コラム
行列の先で受け取った紙袋
最終日、商店街に着くと、店の前に行列ができていました。段ボール箱はほとんど空で、残っているのはキャベツが数個。並んでいる人たちは野菜を買うためというより、おじさんに声をかけるために立っているようでした。
おじさんは1人ずつに、小さな紙袋を手渡していました。
私の番が来ると、袋を差し出してから言いました。
「いつも仕事帰りに来てくれて、ありがとな」
「こちらこそ」
そう返して、袋を両手で受け取りました。
家に帰って開けると、中に入っていたのは小松菜の種が入った小さな袋と、短いメモでした。
「プランターでも育つ。40日くらい。」
店がなくなる代わりに、自分で育ててみてくれということなのだと思いました。私は種の袋をしばらく冷蔵庫の扉に貼り、次の休みに小さなプランターを買いました。
そして...
種は芽を出し、今ではベランダに小松菜が並んでいます。朝に水をやり、食べられる大きさになったものから少しずつ摘むようになりました。
商店街のあの場所には、まだ新しい店は入っていません。
おじさんが何を思って「潮時」と言ったのかは、結局聞けないままです。私が通わなくなったことも理由の1つだったのかもしれないし、まったく違う事情があったのかもしれません。
ただ、小松菜を見るたびに、仕事帰りにネギを新聞紙で巻いてもらった店のことを思い出します。
あの紙袋の中に入っていたのは、店がなくなったあとにも残せるものだったのだと思っています。
(30代女性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)



























