
定型の返却通知に「続き、入荷しました」と1行足した司書の私が、そのあと確かめなかったこと
コラム
下巻を新着の棚に並べてから、私は数日、あの人に知らせる方法がないか考えていました。誰かに先に借りられれば、それで終わりのはずの本でした。
送信の前に添えた1行を、私は消しては、また打ち直していました。
「ないんですね」の声
私はこの図書館で司書をしています。利用者との連絡は返却期限を知らせる公式のチャットが中心で、文面は決まっています。上巻を返しにきたその人のことを、私は覚えていました。
「下巻は、ないんですね」
検索機で調べたあとの声には責める色がなくて、それが逆に引っかかりました。
「申し訳ありません。当館では上巻しか所蔵がなくて」
そう言って頭を下げると、その人は「そうですか」とだけ返して、本を置いて帰りました。その日のうちに、私は下巻を購入候補に上げました。予算の審査があるので、通るとは限りません。それでも出さずにいるほうが、私には落ち着かなかったのです。
新着の棚に並べた日
下巻が届いたのは、それから3週間ほどあとでした。私はそれを新着の棚に並べました。予約は入っていません。誰かに借りられれば、それで終わりです。取り置く理由はありませんでした。それでも、棚の前を通るたびに背表紙を確かめている自分がいました。数日が過ぎて、その人の返却期限の通知が送信の予定に上がりました。公式のチャットには、定型文の下に資料の案内などを書ける欄があります。使ってよい欄ではあります。ただ、私はこれまで定型文しか送ったことがありませんでした。あの人が続きを探していたことを、こちらから持ち出していいのか迷いました。私は案内欄に1行を打ち込みました。
「続き、入荷しました」
本の名前も、自分の名前も入れませんでした。打っては消して、3度目に送信しました。
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送ったあとの画面




























