彼がまとめて払うたび、千円札を封筒へ→「返す分」の封筒が見つかった日に言えたこと

コラム

見つかった日に、はじめて言えたこと

水族館の帰りに寄った駅前のカフェで、その封筒が見つかりました。会計は、その日も彼が済ませていました。窓際の席でポイントカードを探して財布を開けたとき、カード入れの奥から封筒が滑り落ち、テーブルの上で彼のほうへ開きました。

「これ、なに」

取り返そうと手を伸ばして、途中でやめました。隠すことのほうが、よほど失礼だと思ったからです。封筒の表の字を読んだ彼が、どんな顔をするのか見るのが怖くて、私はテーブルの木目に目を落としていました。

「あなたが払ってくれた私の分。返そうとしても、受け取ってくれないから」

彼は封筒を裏返して、日付の並びを追っていました。

彼は、返してほしくて払っていたわけではないと説明しました。それは私も分かっています。むしろ、その気遣いを否定するようで言えず、これまで「別に」で済ませてきました。それでも、封筒を見られた今なら言えると思いました。

「それはわかってる。嫌だったのは、払ってもらうことじゃなくて、私が出すって言っても決めるのがいつもそっちだったこと」

彼は封筒の裏の日付を見ながら、これまで何度も断っていたことに気づいたようでした。

奢られたくなかったのではありません。「私も半分出すよ」と言うのは、その日の会計を一緒に決めたいという申し出でした。それが通らないことが、ずっと引っかかっていたのです。

「ごめん。次から、出すって言われたら勝手に断らない」

「毎回半分じゃなくてもいい。ちゃんと出せるようにしてほしいだけ」

彼はうなずいて、封筒を私の手に戻しました。首を横に振らずに最後まで聞いてくれたことが、封筒の中身よりもずっとうれしかったのです。

そして...

次のデートの会計前、私は封筒から千円札を抜いて、彼に差し出しました。彼は今度は押し返さず、そのまま受け取りました。取っておいた分を使うたび、封筒は薄くなっていきます。裏の日付は、あの日から増えていません。

(20代女性・事務職)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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