片方だけ残った靴下を結んで愛犬の前に置いてきた、帰りの電車で届いたのは2つの結び目の写真

コラム

問いただす言葉を決められないまま、彼の部屋のチャイムを押しました。ドアが開くより先に聞こえてきたのは、廊下を駆けてくる、聞き慣れた爪の音でした。

電車の中で、彼から愛犬の写真が1枚届きました。「最近これがお気に入り」と、添えられた言葉はそれだけ。拡大した画面の中であの子がくわえていたのは、見たことのないおもちゃでした。

いつもの黄色いアヒルがいない

彼と付き合って2年になります。初めて彼の部屋に遊びに行った日、手みやげに選んだのが、鳴き笛の入った黄色いアヒルのおもちゃでした。あの子はそれをすぐに気に入り、それから届く写真には、決まってアヒルが一緒に写るようになりました。

ただ、この1か月は仕事が立て込み、彼の部屋には行けていません。

今回の写真は違いました。ラグの上で寝そべるあの子の口もとに、ピンク色の、結び目のある布のおもちゃが写っていました。アヒルは、画面のどこにも見当たりません。

ピンク色のおもちゃを選んだのは、誰なのだろう。彼が自分で買うとは思えない色でした。行けなかったこの1か月のあいだに、あの部屋を訪ねて、あの子に贈り物をした人がいるのかもしれない。スマホを鞄にしまえないまま、降りる駅のアナウンスを聞き流しそうになりました。

返事は「かわいいね」とだけ打って、送りました。

さかのぼった写真フォルダ

家に着いてからも、写真を閉じられずにいました。これまでに届いた写真を順にさかのぼると、アヒルは少しずつ色が抜け、片方の羽がほつれています。それでも前回の写真までは、あの子のそばにいつもアヒルがいました。

彼の職場の後輩、近所に住む友人、前に付き合っていた人。思い浮かぶ顔を並べては、どれも決め手がないまま打ち消していきます。彼がそういう人ではないことは、分かっているつもりでした。それなのに写真を開くたび、目はピンク色のおもちゃのほうへ向かいます。

「あのおもちゃ、誰にもらったの?」と文字で聞けば、疑いがそのまま届いてしまう。顔を見て聞こうと決めて、別のメッセージを送りました。

「次の休み、行ってもいい?」

返事はすぐに届きました。「待ってる」。その早さに少し安心した自分と、まだ疑っている自分が、両方いました。

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