「友達の前では、それ出さないでね」と念を押された時刻表→強風で電車が止まり、俺はリュックを下ろした

コラム

バスの中で彼女の友人に褒められ、俺はとっさに短い返事で済ませました。けれどあの行き方は、ホームで偶然見つけたものではなかったのです。

リュックの奥に手を入れると、指先に時刻表の硬い表紙が触れました。取り出せば、彼女との約束を破ることになります。すぐ隣では、彼女がスマホの時計と電光掲示板を見比べていました。

笑われた日のページ

子どもの頃から、紙の時刻表を眺めるのが好きでした。数字の列をたどれば、知らない町まで自分の力で行ける気がするのです。

ソファで乗り換えに印をつけていた時、彼女に笑われました。

「その趣味、ダサいよ」

顔を上げて笑い返し、ページに目を戻したものの、赤ペンの印をなぞるばかりで先へは進めませんでした。彼女が俺の趣味を友人に隠そうとしていることは、なんとなく察していました。

前日に書き出した3通りの行き方

彼女の親友の式は、本数の少ない地方の路線の先でした。予報には強風の文字が並んでいます。「あの路線、乗ってみたかったんだ」と言ってついていくことにしましたが、頭にあったのは止まった時の行き方でした。

前日、彼女が式に着ていく服を選んでいる間に、止まった場合の行き方を3通りメモに書き出し、時刻表の最後のページに挟みました。

出発前、彼女に念を押されました。

「友達の前では、それ出さないでね」

「うん、分かった」

メモごと、時刻表をリュックのいちばん下に入れました。

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