「お父さんへ。全部読んだ」娘から届いた返事。「お前へ」で始めた長文に、俺が込めたこと

コラム

名前で呼べば済む話なのに、嫌がられた呼び方をそのまま書き出しに使うと決めました。思い出していたのは、産院の廊下で娘の誕生を待ったあの日のことです。

娘にとって「お前」は、小言の合図になっていた

東京の会社に決まったと聞いてから、娘とは言い合いばかりでした。「お前一人で本当にやっていけるのか」と、心配を口にするほど声が大きくなっていきます。

引っ越しの前日、荷造りの手を止めて反論してきた娘に「お前は何も分かってない」と返すと、娘は自分の部屋へ戻っていきました。まもなく、居間でスマホが鳴ります。

「その『お前』って言うの、やめてよ」

生まれたときから呼んできた呼び方です。深く考えずに打ち返しました。

「お前はお前だろ」

「そういうところが嫌なの」

振り返れば、「お前にはまだ早い」「お前は考えが甘い」と、「お前」のあとに続けてきたのは小言ばかり。娘にとっては、叱られる前の合図になっていたのでしょう。「荷物、それで全部か」と声をかけても返事はなく、翌日の見送りにも、行くとは言い出せないままでした。

名前も祝いの言葉も、書き出しにできなかった

最初に打った娘の名前は、他人に宛てた手紙のように見えて消しました。「就職おめでとう」も、あれだけ反対した口で書くには都合がよすぎます。

「昨日は言いすぎた」とも打ちました。けれど謝れば、言い合いの続きになるかもしれない。また言い返されるのが怖くて、これも消してしまいました。

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