「また彼女と喧嘩したの?」と聞いた私に、兄が黙って向けたスマホ。そこにあった「送信を取り消しました」の一行

コラム

悪いのは自分だと言いながら、兄は取り消したメッセージを送り直そうとしませんでした。理由を尋ねた私に、兄は数か月前のチャットを見せます。

ベランダの手すりに、取り込み忘れたタオルが1枚だけ残っていました。窓を開けると、室外機の横で兄が膝を抱えて座り込んでいます。兄がリビングを出ていってから、ずいぶん時間がたっていました。

顔を上げない兄の「……俺が悪い」

兄は昔から、人の話にすぐ答えを出したがります。私が部活の愚痴をこぼした時も、返ってきたのは「やめれば?」でした。

「また彼女と喧嘩したの?」と聞くと、兄は顔を上げないまま「……俺が悪い」とだけ言いました。

「じゃあ謝れば?」

兄は答えず、スマホの画面をこちらに向けました。

取り消したのは「ごめん、もう言わない」

彼女の長文に、兄の親指のスタンプと「気にしすぎじゃない?課長も仕事でしょ」。そして彼女の「それ、前も言ったよね」。その下に「メッセージの送信を取り消しました」の一行が残っていました。

「何送ったの?」

「『ごめん、もう言わない』って」

兄がさかのぼって見せた数か月前のやりとりにも、同じ「気にしすぎじゃない?」と、同じ「ごめん、もう言わない」がありました。

少し間を置いて、兄は「また同じこと言った」とつぶやきました。

謝る言葉まで前と同じだったから、送った直後に消したのだと思います。

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