兄の家で食器を置きっぱなしにしていた私が、兄にだけは言えなかった家出の理由

コラム

兄には言えなかった理由

1週間がたった日、お椀とグラスを残したままソファにいると、兄の彼女が帰ってきました。

「なんで私たちの家に来たの?」

スマホを伏せて、ソファの上で座り直しました。

「お兄ちゃんには言わないでほしいんだけど」

「お菓子の学校に行きたいって言ったら、お父さんに反対されたの」

会社を辞め、貯めたお金で製菓の専門学校に通いたい。そう話した私に、父は「そんな不安定なことをするな。お兄ちゃんみたいにちゃんと働け」と言いました。

それから食事のたびに進路の話をされ、荷物をまとめました。理由を細かく聞かずに置いてくれそうなのは、兄だけでした。

兄に言わないでほしい理由を聞かれ、少し目をそらしました。

「自分と比べられたせいで私が家を出たって知ったら、お兄ちゃん、気にすると思うから」

兄の彼女はお椀に目をやってから、答えました。

「お兄ちゃんには話さないよ」

少し間を置いて、兄の彼女は続けました。

「応援するよ。だから、自分の身の回りのことは自分でできるようになろう」

出ていってと言われると思っていました。小さくうなずいて、お椀とグラスを流しへ運びました。自分で食器を洗ったのは、この部屋に来て初めてでした。

そして...

次の日、ベランダで洗濯物を広げる兄の彼女の隣へ、ハンガーを持って行きました。

「これ、どうやって干せばいい?」

手本をまねしても、シャツの袖はそろいません。それでも、自分の分は自分で干しました。

数日後、兄が出かけたあと、兄の彼女とスマホで説明会の日程を調べました。

「ここ、行ってみようかな」

画面の日付を指さすと、兄の彼女がうなずきました。

その日付を手帳に書きました。母からの電話には、今も洗面所で出ています。

(20代女性・会社員)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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