
「親に会う日、あの服着てきて」彼が指定したのは一番着たくない服→玄関で彼の母が小さく声を上げた
コラム
何度も袖へ下りてくる視線
居間では彼の父が迎えてくれ、話はおもに父と彼が進めました。彼の母はお茶と羊羹を出したあと、湯のみを両手で包んだまま、ほとんど話しません。ときどき目が合うと、その視線は私の顔から袖のあたりへ下りていきました。
紺を着てくればよかった。膝の上で重ねた手の下で、ワンピースの布をつまんでは離していました。彼は隣で父と仕事の話を続けていて、こちらを見ません。頼んだのはあなたなのに、という言葉を、羊羹と一緒に飲み込みました。
そして...
帰り際、玄関で靴を履いていると、彼の母が一歩前に出ました。
「その服、また着てきてね」
さっきより少しだけ大きな声でした。「はい」と頭を下げたものの、本当に気に入ってくれたのか、気を遣ってそう言ってくれただけなのか、判断がつきません。駅で彼と別れる時も、理由を聞き直すことはしませんでした。
家に帰り、ワンピースをクローゼットの一番手前に掛けました。奥に戻さなかった理由は、自分でもまだ説明できません。あの日、玄関で彼の母が見ていたのは、服の色だったのでしょうか。
(20代女性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)






























