
挨拶の日、「子どもっぽい」と彼女が嫌がった服を頼んだ俺→母に見せたかったもの
コラム
玄関で母がこぼした小さな声の意味を、隣にいた俺だけは分かっていました。それでも居間で言葉の少ない2人の間に、俺は最後まで入っていけなかったのです。
電話の向こうで、母がしばらく黙り込みました。彼女を連れて実家へ挨拶に行く日取りを伝えた直後のことです。続いた母の言葉を聞いて、俺は彼女にある服を頼もうと決めました。
人見知りの母が気に入っていた1枚
「ちゃんとした格好の人が来たら、お母さん何も話せないかも」
母は昔から人見知りで、初対面の相手とは天気の話も続きません。思い出したのは、正月に帰省した時のことでした。俺のスマホで旅行の写真を見せると、母は屋台の前でからし色のワンピースを着て笑う彼女の1枚を拡大し、「この子、いい顔で笑うのね」とつぶやきました。帰るまでに、3回もその写真を見せてと頼んできたほどです。
あの写真の姿で来てもらえば、母も知っている人に会う気持ちでいられるかもしれない。そう考えました。
理由を言えないまま頼んだ服
彼女の部屋のソファで、カレンダーに印をつけながら切り出しました。
「親に会う日、あの服着てきて」
「あれ、子どもっぽいでしょ。紺のセットアップにしようと思ってたんだけど」
「あれがいいんだ。頼む」
理由を聞かれても、カレンダーから目を上げずに首を振りました。母が写真を気に入っていると言えば、彼女は母の期待まで背負って玄関に立つことになる。あの写真を勝手に見せたと知れば、嫌がるかもしれない。言わない理由ばかり並べて、彼女があのワンピースを好きではないことには触れずにいました。
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写真と見比べていると思っていた視線




























