
名前のない「庭木が越境しています」の張り紙。脚立にのぼった私に、飛び出してきた隣人の一言
コラム
脚立の上でノコギリを構えた私に、フェンスの向こうから声が飛んできました。張り紙を貼ったお隣さんが口にしたのは、思ってもいなかった一言でした。
洗濯物を取り込もうと庭に出たとき、フェンスに貼られた白い紙が目に入りました。印刷された文字は短く、差出人の名前はどこにもありません。それでも、誰が貼ったのかはすぐに分かりました。
名前のない張り紙
紙には「庭木が越境しています」の一行と、その下に「枝の剪定をお願いします」とだけありました。
庭の金木犀は、6年前に家を建てた年、夫と植えたものです。いつの間にか背が伸び、東側の枝がフェンスを越えてお隣の庭へ張り出していました。
お隣さんは60代くらいの女性で、顔を合わせれば天気の話をする間柄です。言ってくれれば、すぐに切ったのに。紙をはがしながら、その言葉を頭の中で繰り返しました。
帰宅した夫に見せると、夫は紙を裏返して眉を寄せました。
「直接言ってくれればいいのにな」
夫の言うとおりだと思う一方で、枝を伸ばし放題にしていたのは私たちです。手入れを怠ったこちらが責められている。そう思うと、紙を引き出しにしまう手つきが雑になりました。
ホームセンターで選んだノコギリ
翌日は、ごみ置き場でお隣さんと鉢合わせ。お隣さんは何か言いかけたように見えたものの、私は浅く頭を下げただけで、先に家へ戻ってしまいました。顔を見れば、張り紙の文字ばかりが浮かんだからです。
業者に頼むより早いと思い、仕事帰りにホームセンターへ寄り、剪定用のノコギリと軍手を買いました。物置の脚立は、夫が出しておいてくれたものです。
次の休みの朝、フェンス際に脚立を立てました。張り出した枝の付け根は思っていたより太く、一段ずつのぼって刃を当てたあとも、しばらく角度を確かめていました。
引こうとした、そのときです。お隣の玄関のドアが、勢いよく開く音がしました。
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エプロン姿のお隣さん



























