名前のない「庭木が越境しています」の張り紙。脚立にのぼった私に、飛び出してきた隣人の一言

コラム

エプロン姿のお隣さん

サンダルで庭を横切って飛び出してきたのは、エプロンを着けたままのお隣さんです。フェンスの前で足を止め、脚立の上の私を見上げていました。

「待って!その枝、切らないで!」

刃を枝に当てたまま、お隣さんを見下ろしました。剪定をお願いしますと紙に書いたのは、お隣さんのはずです。

「張り紙、見ました。すぐに切りますので」

そう返すと、お隣さんは首を横に振りました。

「ごめんなさい、張り紙のことも、ちゃんと話させてください」

続く言葉は、少し声が落ちていました。

「片づけが済んだら、うちに寄ってもらえますか」

文句を言われると思っていた相手に、頭を下げられていたのです。わけが分からないまま、ノコギリを枝から離しました。

「分かりました。脚立をしまったら伺います」

お隣さんはもう一度頭を下げ、家の中へ戻っていきました。

そして...

脚立を下りて、刃にカバーをはめました。見上げた金木犀の枝は、さっきと同じ形でフェンスの上に張り出したまま。

脚立をたたんで物置に戻し、軍手を外してお隣の門の前へ。

枝を切ってほしいと紙に書いたのはお隣さんで、その枝を切らないでと止めたのもお隣さんでした。お隣さんはあのとき、どうして私を止めたのでしょうか。インターホンに指を伸ばしながら、その答えを探していました。

(30代女性・会社員)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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