
お隣に張り紙をした私が、脚立の音を聞いてフェンスまで走った理由
コラム
お隣さんの庭木のことで、張り紙とは逆のお願いを伝えなければならなくなりました。けれど、言い出せませんでした。あの張り紙を貼ったのが、私自身だったからです。
風が吹くたびに、寝室の窓を何かが擦る音が続きました。カーテンを開けた先にあったのは、ガラスに触れるほど伸びたお隣の金木犀の枝でした。雨どいにも落ち葉が溜まり、雨のたびに水があふれるようになっていたのです。
夫に言われて作った張り紙
お隣は6年前に家を建てて越してきた、30代くらいのご夫婦です。若い奥さんとは、会えば天気の話をする程度の間柄でした。
枝のことを伝えようと思ったことは、何度もあります。けれど本人の顔を見ると、角が立つ気がして口に出せませんでした。
「紙に書いて貼っておけばいいだろう」
夫にそう言われ、ネットの例文をほぼそのまま使い、「庭木が越境しています」「枝の剪定をお願いします」の2行を印刷。名前を入れるか迷ったものの、結局入れないまま、お隣が留守の間にフェンスへ貼りました。
翌日、ごみ置き場で会ったお隣さんに言い方がきつかったと謝ろうとしたものの、お隣さんは浅く頭を下げて、すぐに家へ戻っていきました。
寝室の窓から見えたもの
その2日後、布団を干そうと寝室の窓を開けたときです。張り出した枝の先、葉の陰に、お椀のような小さな巣がありました。巣の中では、ヒナが口を開けていました。下の庭からは、茂った葉で見えない位置です。
この枝を切ったら、巣ごと落ちてしまう。巣立つまで待ってほしいと、お隣に伝えなければ。
けれど、切ってほしいと紙を貼ったのは私です。今度は「やっぱり切らないで」と言えば、自分の都合で要求を変えているようにしか聞こえない気がしました。お隣の門まで行っては、呼び鈴を押せずに引き返す日が続きました。
そうして迎えた休みの日、窓の外で、脚立がフェンスに当たる金属の音がしました。カーテンを開けると、ノコギリを手にしたお隣さんが、脚立をのぼっていくところでした。
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フェンス越しに言えなかったこと



























