
妻に財布を片付けろと言われた俺が、娘の似顔絵の切れ端だけは捨てられなかった理由
コラム
レシートを抜いていた妻の指が、カード入れの奥に届きました。あの紙を財布に入れた日のことは妻に言えず、娘にも謝れないまま、財布だけがふくらんでいきました。
ごみ箱の底で、画用紙の切れ端が丸まっていました。拾い上げて広げると、クレヨンの肌色が指先に少しだけ移りました。その切れ端を入れて以来、財布を開いて整理しようとするたび、途中でやめてしまうようになりました。
床に広がったクレヨン
妻とは結婚して8年、6歳の娘がいます。娘がまだ5歳だった頃、妻が美容院に出かけ、娘と2人で留守番をしていた日のことです。
リビングの床いっぱいにクレヨンと画用紙が広がっていて、俺は仕事の電話を受けながら、2回、片付けるように言いました。3回目で、自分でも思っていなかった大きな声が出ました。
「いいかげんにしなさい」
娘は泣きながら描きかけの紙をつかみ、びりびりに破ってごみ箱に入れました。「パパの絵だったのに」と言い残して、子ども部屋へ走っていきました。
あとで拾い集めた紙は、ほとんどが細かくちぎれていて、形が残っていたのは顔の部分だけ。メガネと笑った口、その下に「ぱぱ」の字がありました。残りは捨て、その切れ端だけを財布のカード入れの奥にしまいました。
整理できなくなった財布
翌日、娘はけろっとした顔で「パパ、おはよう」と言ってきました。謝るきっかけを逃したまま日が過ぎ、妻にも、娘を泣かせたことを言えずにいました。大声を出した父親だと思われるのが怖かったのです。
財布を整理しようとするたび、カード入れの奥の切れ端が目に入りました。見るたびに、泣きながら紙を破った娘の姿を思い出します。その先まで整理する気になれず、新しいレシートを上から押し込むことを繰り返しました。二つ折りの財布は、いつの間にか閉じなくなっていました。
スーパーのレジでは、床に落ちたレシートを拾って渡してくれた妻に、小声で言われました。
「財布、パンパンだよ」
「あとでやるから」
小銭を数えるふりをして、妻の顔は見ませんでした。
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妻の手の中で開かれた紙




























