
彼女に合鍵を渡せなかった俺の部屋は、2年間ずっと妹の名義でした
コラム
「もう少し待って」と言うたび、彼女の顔から表情が消えるのは分かっていました。自分名義で契約し直せる状態になった去年も、書類は引き出しに入ったままでした。
テーブルの真ん中に、妹あての封筒が置いてありました。差出人は、この部屋の管理会社です。飲み物の袋を提げたまま、俺は玄関で靴を脱ぐのを忘れていました。彼女は椅子に座ったまま、こちらを見ていました。
審査に落ちた2年前、妹の名前で借りた部屋
2年前、今の会社に転職したばかりの俺は、部屋の契約審査に通りませんでした。契約社員になったばかりで、収入の証明も十分に出せない時期でした。管理会社に相談すると、親族を契約者にする形なら申し込めると言われ、妹に契約者になってもらいました。実際に住むのは俺だと届け出たうえでの契約です。鍵は2本。契約者の妹が1本を持ち、俺は残りの1本で暮らし始めました。
その直後に付き合い始めた彼女は、すぐに部屋に泊まるようになり、歯ブラシも部屋着も増えていきました。合鍵の話が出るたび、俺は同じ言葉を返しました。
「もう少し待って」
鍵を1本増やすには、契約者である妹から管理会社に申請してもらう必要がありました。ただ、頼めば、この部屋が自分の名義ではないことを彼女に話す流れになる。彼女の前では、ちゃんとした大人に見せておきたい。それだけの理由で、俺は2年間、待ってと言い続けました。
正社員になっても、引き出しにしまったままの紙
去年、俺は正社員になりました。自分の名義で契約し直せる条件は、その時点でそろっていました。管理会社から取り寄せた申込書類は、今も机の引き出しに入っています。
書けば、妹に名前を貸させ続けずに済み、彼女には鍵を渡せる。分かっていて、俺は書類を出しませんでした。名義を変えるには、彼女に今まで妹の名前だったと説明することになる。しかも去年から動けたのに、1年放置したことまで話さなければならない。黙っていたぶんだけ、切り出す言葉は重くなりました。
「もう少し待って」と言うたび、彼女の顔から表情が消えるのは分かっていました。それでも次に会えば笑ってくれる彼女に、俺は毎回甘えていました。
次のページへ
「言ったら、頼りない男だと思われると思ってた」



























