台風の前になると勝手に動くベランダの鉢→仕切り板の下に残っていた痕跡

コラム

隙間から見えた軍手

今年3度目の台風は、予報が出た翌日に近づいてきました。私は仕事を早めに切り上げ、窓の近くで待ちました。風が強まったころ、鉢の底がコンクリートを擦る音がしました。窓を開けると、仕切り板の下の隙間から、軍手をはめた手が伸びて、バジルの鉢を壁際へ押しているところでした。

「その鉢、動かしていたのはあなたですか」

隙間の手は鉢に載ったまま、板の向こうから男性の声がしました。

「すみません。去年の台風で、そちらの鉢が倒れて、土がこっちの排水口に流れたんです」

「言ってくれたらよかったのに」

「呼び鈴を押す勇気がなくて。すみません」

板があるので顔は見えません。ただ、隙間の手は鉢を押し切らないまま、ゆっくりと引っ込んでいきました。私は去年の台風の翌日、自分のベランダしか片付けなかったことを思い出しました。倒れた鉢を起こし、こぼれた土を掃いて、それで終わりにしていました。

「今度からは、台風の前に自分で寄せます」

「助かります」

それだけ言って、隣の窓が閉まる音がしました。

そして...

今、私のベランダの手すりには、鉢が1つも置いてありません。4つとも壁際に並べ、普段からそこに置いています。郵便受けの前で隣の人と顔を合わせると、目を合わせて会釈をするようになりました。板の下の隙間から、うちの土が流れることはもうありません。

(30代女性・会社員)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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