
「少し寄せるだけなら迷惑じゃない」隣の鉢を仕切り板の下から動かしていた僕
コラム
板の向こうの声
今年3度目の台風の予報が出て、僕は同じように軍手をはめ、板の前にしゃがみました。風が強まったころ、バジルの鉢を壁際へ押し始めたところで、隣の窓が開く音がしました。鉢を動かしていたのはあなたかと女性の声で聞かれ、僕は軍手をはめた手を鉢に置いたまま、去年の台風で土がこちらの排水口へ流れたことを説明しました。
「言ってくれたらよかったのに」
「呼び鈴を押す勇気がなくて。すみません」
板があるので、彼女の顔は見えません。責めるような声ではなかったのに、僕は鉢を押し切れないまま、手をゆっくりと引っ込めました。迷惑はかからないと思っていましたが、それを決めるのは僕ではなかったのだと、板の前でようやく思いました。
呼び鈴を押さずに済ませた結果、僕はもっと気味の悪いことをしていたのかもしれません。彼女はこれからは台風の前に自分で寄せると言い、僕は助かりますとだけ答えて、自分の窓を閉めました。
そして...
今は郵便受けの前で隣の人と顔を合わせると、僕の方から会釈をしています。台風の予報が出た日にベランダに出ると、隣の鉢は4つとも壁際に並んでいます。排水口の隅に、隣から流れてきた葉はもうありません。
(40代男性・配送ドライバー)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)





























