結婚したいと先に思っていたのは俺なのに、彼女の親に会うのが怖かった→2日かけて気づいた怖さの正体

コラム

靴を脱がないまま伝えた本音

チャイムを押すと、彼女がドアを開けました。俺は玄関のマットに立ったまま、靴を脱ぎませんでした。脱いでしまうと、言う前に部屋に上がって、いつもみたいにテレビの話に流れてしまう気がしたからです。ドアの縁に手をかけた彼女が、上がらない俺を見ています。用意した言い方は、口に出す直前まで何度か入れ替わって、結局いちばん飾りのないものが残りました。

「かっこ悪いけど、今の俺は君の親に会うのが怖い」

彼女はドアの縁を握ったまま、俺の顔から目をそらしませんでした。

「結婚、考えてないのかと思ってた」

「考えてないんじゃない。君の親に、この人なら大丈夫だって思ってもらえる自信がないんだ」

言ってしまうと、2日間抱えていたものが、口にすれば短く済む言葉だったことに気づきました。隠しているあいだは重かったのに、渡してしまえば、彼女がどう受け取るかを待つだけになりました。

「じゃあ、怖いまま来て」

ドアから手が離れて、彼女は一歩下がりました。俺はそこでやっと、靴を脱ぎました。

そして...

約束の日、俺は彼女と並んで、彼女の実家の玄関の前に立ちました。チャイムを押したのは彼女で、ドアを開けたのは、写真でしか見たことのない父親でした。

「どうぞ」

上がり口までの数歩が、彼女の部屋のマットの上より遠く感じました。怖さは消えていません。それでも今度は、隣に彼女がいるまま、かかとを踏まずに靴を揃えて脱ぐことができました。

居間へ通されると、彼女は俺の隣の席に座りました。向かいには父親がいます。テーブルに置かれた湯のみへ手を伸ばしても、口をつける余裕はありませんでした。

「仕事は忙しいのか」

最初に聞かれたのは、それでした。

「忙しい時期と、そうでない時期があります」

自分でも拍子抜けするほど普通の答えが口から出ました。父親は「そうか」とうなずきました。隣を見ると、彼女は何も言わずに湯のみを持っています。俺もようやく、自分の湯のみに口をつけました。怖さは消えていません。それでも、怖いままここに座って、聞かれたことに答えることはできました。

(20代男性・営業職)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

  • X
  • Line