
「深い意味はないよ」と言ったのは嘘です。彼女のグラスだけ遅らせた、本当の理由
コラム
運ばれてきたお盆の上に、人数分のグラスが並んでいました。僕はそれを一つずつ、みんなの前に配っていきます。けれど好きな人の分だけは、手元に残したままにしていました。それには、誰にも言えない理由があったのです。
グラスを配りながら、見ていた人
久しぶりに友人たちと集まった席で、僕は自然とお盆を受け取り、グラスを配る役を引き受けていました。本当の目的は、ただ一つ。同じグループにいる好きな人に、少しでも近づきたかったのです。
飲み物は、とりあえずみんなで生ビールを、という流れになりました。にぎやかに注文が進むなか、僕はひそかに気になっていました。彼女がお酒を飲まないことを、以前の集まりで知っていたからです。
みんなと同じ生ビールを彼女の前に置けば、きっと口をつけられないまま、困った顔をさせてしまう。そう思った僕は、彼女の分だけ配るのをためらいました。
気づかれたくなかった、小さな気遣い
僕は彼女のグラスを手元に残し、通りかかったお店の人に、そっと別の飲み物を頼みました。大きな声で事情を説明すれば、かえって彼女に気をつかわせてしまう。だから、できるだけ目立たないように済ませたかったのです。
ところが、僕がもたついている間に、誰かの「乾杯」の掛け声がかかってしまいました。みんなが一斉にグラスを持ち上げるなか、彼女の前にはまだ何もありません。彼女が中途半端に上げた手を下ろすのが見えて、よかれと思った段取りが裏目に出たことに気づきました。
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本当の理由を、言えなかった
























