
「お母さんの夢は、私の夢じゃないよ」ピアノ教室の案内を前に、私は母へ告げた
コラム
実家の居間で伝えた本音
居間へ入ると、母は同じパンフレットをもう1部用意して待っていました。湯のみのお茶が冷めてから、私は切り出しました。
「お母さんの夢は、私の夢じゃないよ」
母はすぐには答えず、パンフレットの端をそろえました。
「あなたのためだと思ってた」
「私、パンを焼いてるときが一番楽しいの」
そう伝えると、母の声が硬くなりました。
「せっかくここまでしてあげたのに」
私は理由を並べず、「自分のことは、自分で決めたい」と伝えました。母はパンフレットを見たまま、返事をしませんでした。
帰り際、母はいつもの「気をつけてね」を言いませんでした。
そして...
それから、母との連絡は途絶えがちになりました。何を送ればよいのか決められず、私からも連絡しないまま1カ月近くが過ぎました。
先に届いたのは、母からの写真付きメッセージです。写っていたのは、大人向けピアノ教室の入会証でした。「自分の名前で申し込みました」と短く添えられています。
私は返事の代わりに、その週に焼いたパンの写真を送りました。
次に実家へ帰った日、台所でパンを焼きました。膨らんでいく生地をのぞき込んだ母が聞きました。
「今度、教えてくれる?」
私たちは、すぐに以前の関係へ戻ったわけではありません。それでも、母は私の予定を先に聞くようになりました。
メッセージ画面には、母の入会証と私が焼いたパンの写真が並んでいます。互いのやりたいことを初めて見せ合えた記録として、今も残っています。
(20代女性・事務職)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)

























