
「行きたくないなら、そう言ってよ」彼との初めての温泉旅行を断った私、スマホの通知で知られた理由
コラム
テーブルに置いたスマホが振動し、脱毛サロンからの予約通知が表示されました。そこにあった日付は、私が予定を理由に断った温泉旅行の候補日。隣にいた彼も、その画面を見ていました。
彼の部屋のローテーブルには、旅行サイトを開いたタブレットが置かれていました。隣に座ると、彼はうれしそうに画面をこちらへ向けました。
うなずけなかった温泉の誘い
付き合って1年になる彼とは、まだ2人で泊まりの旅行をしたことがありませんでした。画面には個室露天風呂の写真と、1か月ほど先の日付が表示されています。
「温泉、行かない?」楽しみにしているのが伝わってきました。
私も、本当は行きたかったのです。ただ、彼には話していない悩みがありました。腕や背中の毛が、人より濃いことです。学生の頃にからかわれて以来、肌を見せることが苦手になりました。夏でも長袖を選ぶことが多く、彼からプールへ誘われたときも、別の理由をつけて断ってきました。
数か月前から脱毛サロンへ通い始めましたが、施術はまだ途中です。しかも彼が選んだ日は、6回目の施術予約と重なっていました。予約だけなら、別の日へ変更することもできます。それでも、まだ気にしている部分を彼に見られる状態で温泉へ行くことのほうが、私には難しかったのです。
「その日は、予定があって」結局、言えたのはそれだけで、彼から予定の中身を聞かれても、うまく説明ができませんでした。
「行きたくないなら、そう言ってよ」
彼は少し黙ったあと、タブレットをテーブルへ置きました。「行きたくないなら、そう言ってよ」思ってもいなかった言葉でした。
「そういうことじゃないの」すぐに否定しました。それなら理由を話せばいいのに、体毛のことはどうしても口にできませんでした。その日は気まずいまま、いつもより早く彼の部屋を出ました。
帰宅してから何度かメッセージを書きました。それでも具体的な理由を書くところまで進めず、すべて消しました。彼に知られたくなくて隠しているのに、そのせいで「一緒に行きたくない」と思わせていることは分かっていました。
それから、彼とのやりとりは以前より短くなりました。私も何を送ればいいのか分からず、温泉の話には触れないまま数週間が過ぎました。
次のページへ
スマホに表示された予約日
























