「家じゃない」と送った私に、「そっか」「今日、会える?」と返した彼が、ベンチで見せた2部屋の間取り図

カップル

返せなかった代わりに送った短い言葉に、彼は一言だけで応えました。駅前のベンチで彼が鞄から出したものを見て、私は自分の鞄の口を握ったままでいました。

不動産屋のカウンターに置かれた間取り図の隣で、スマホの画面が、今日10回目の同じ短いメッセージを映していました。

「今どこ?」に「家」と返す毎日

彼から届くのは、いつも「今どこ?」でした。付き合って二年、決まった時刻があるわけでもなく、仕事中でも休みでも、1日に10回は届きます。私はそのたびに「家」「会社」「スーパー」と打ち返してきました。返さないでいると、同じ言葉がもう一度届く。それだけのやりとりが、いつのまにか私の1日の区切りになっていました。

その日、私は初めて、彼に言っていない場所にいました。駅から少し離れた不動産屋で、1人用の部屋の図面を眺めていたのです。別れると決めていたわけではありません。ただ、誰にも居場所を聞かれない部屋がどんなものか、確かめてみたかっただけでした。

「家」と打って、消した

担当者の説明を聞きながら、私は膝の上で画面を開きました。「家」と打ちかけて、送信の手前でそのまま消しました。今までなら考えるより先に送っていた言葉が、その場所では嘘になります。図面を折りたたんで、店を出ました。

帰り道、もう一度「今どこ?」が届きました。私は「家じゃない」とだけ送りました。既読はすぐに付きましたが、返事はなかなか来ません。信号を2つ渡ったころに、ようやく「そっか」とだけ届きました。続けて「今日、会える?」。私は「駅前のベンチ」と返して、そこに向かいました。

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