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    先生からもらったお礼状の見本を、僕は宛名だけ変えて母に送りました

    ライフスタイル

    型を借りた文なら、口から先に出る「別に」は出てきません。既読がついたまま何も届かない画面を、僕は取り消しの長押しに指を置いたまま見ていました。

    パン屋の裏口の段に座って、僕は先生からもらったお礼状の見本を見ながら、チャットの入力欄に宛名を打っていました。

    「別に」しか出てこない口

    中学2年の春から、母に何か言われると、口が先に動きます。「別に」か「うるさい」。言いたいことが別にあっても、そのどちらかが出たあとでは、もう続けられません。母から届くメッセージにも、既読をつけたまま返さないのが、いつのまにか普通になっていました。職場体験の3日間、僕は「弁当は普通でいい」と言っていました。それでも母は、形のそろった卵焼きと果物を入れてきました。体験先の人に「きれいなお弁当だね」と言われて、僕は「母が」とだけ答えました。

    宛名だけを書きかえた見本

    最終日、先生から配られたお礼状の見本には、「このたびは」から「ご報告いたします」まで、言葉が全部入っていました。空いているのは宛名と、体験先で見たことの欄だけです。書き終えて読み返すと、3日前に会ったばかりの人に、母には半年言えていない言葉を、僕は書いていました。型があれば、「別に」は出てきません。宛名の欄に「お母様へ」と打ちました。あとは見本のとおりです。母は勤め先で、目の前にはいません。目の前にいたら、読まれる前に「うるさい」が出るとわかっていました。終わりに、見本にはない文を足しました。「好きです」まで打って、消しました。打ち直して残したのが、「僕は、お母さんのことが、きらいなわけではないです」でした。

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