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    弟の荷造りに追われる実家の台所で、母はまた私に「あんたは心配いらない」と言った

    ライフスタイル

    「私のこと、どうでもいいと思ってる?」荷ほどきの途中で、母に電話をかけてそう聞きました。そこまで言わせたのは、子どもの頃から何度も聞かされてきた、母の同じ一言でした。

    油性ペンのキャップを外す音が、実家の台所で何度も響いていました。母は弟の段ボールに、中身を1つずつ書き込んでいました。同じ春に家を出る私の荷物には、まだ誰も触れていませんでした。

    弟の段ボールと、私への同じ返事

    弟は大学進学で、私は転勤で、同じ春に一人暮らしを始めることになっていました。母はパートの休みをすべて弟の準備にあて、調味料やタオルを小分けにしては箱に詰めていきました。

    「私も来週引っ越しなんだけど」

    声をかけると、母はペンを動かしたまま答えました。

    「あんたは心配いらない」

    聞き慣れた言葉でした。高校の合格発表の日も、就職が決まったときも、母の返事はいつもこれ。弟が自転車の鍵をなくせば一緒に探し回り、提出物を忘れれば学校まで届けに行く母を、私は少し離れた場所から見てきました。

    褒め言葉だと受け取ろうとした時期もありました。けれど28歳になっても、この言葉を聞くたびに、私の話はそこで終わりにされてきた気がしていました。

    新しい部屋で鳴らした呼び出し音

    引っ越し当日、母は弟と一緒に電車で弟の新居へ向かいました。私の部屋に来たのは、引っ越し業者の2人だけでした。

    積み上がった段ボールの間に座り、母に「着いたよ」と送りました。届いた返事は「よかった」だけ。家族のグループチャットには、母が弟の様子を写真付きで流していました。カーテンを測る弟、炊飯器を抱える弟。その画面を何度も上に戻しては、また下まで眺めていました。

    剥がしかけのガムテープをそのままにして、通話のボタンを押しました。聞くなら今しかない気がしたのです。

    呼び出し音が4回鳴ったあと、ふっと途切れました。

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