
財布の拾い主から「お礼はいりません」→代わりに月に一度、ある報告を頼まれました
ライフスタイル
角がすり切れて買い替えを迷った月、返ってきたのは、いつもの礼ではありませんでした。私は今も、あの財布を捨てられずにいます。
バスの営業所で受け取った封筒には、財布と一緒に、拾い主の連絡先を書いた紙が1枚入っていました。
お礼をさせてください
財布を落としたのは3年前で、通勤のバスの座席に置き忘れたようでした。気づいたのは会社の売店で、財布を出そうとして鞄の中を3度探したあとです。カードを止める電話を終えたころ、営業所から届いていますという連絡が入りました。受け取りに行けたのは翌日で、拾い主の欄には連絡先の開示に同意すると印がついていて、私はその場で書いてある宛先へ文を送りました。
「財布を拾っていただいた者です。無事に戻りました。お礼をさせてください」
返事はその日のうちにつきました。
「お礼はいりません」
続けてもう1通。
「代わりに、1つお願いがあります。月に一度、『財布、まだ持っています』とだけ送ってください」
私は画面を上へ戻して、2通を読み直しました。
「それだけで、いいんですか」
「それだけで、いいんです」
月の初めの1行
最初の月は、頼まれたとおりの文を打ってから、送る前に3度読み返しました。
「財布、まだ持っています」
返ってきたのは「ありがとうございます」で、私はそれを受け取るたび、向きが逆だと思っていました。礼を言うのは私のほうで、その礼を断られた代わりに、私は落としていないことを報告している。2度目に落とすようなら知らせなさい、と言われているように読めました。半年もすると、月の初めに届くカレンダーの通知と同じ扱いになり、頼まれた文をそのまま送って、返ってくる礼をそのまま閉じる、それだけになりました。一度、近況を添えようとして、打った文を消しました。添えれば、来月もまた添えなければならない気がしたからです。
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買い替えを迷った月


























