
ずっと欲しかったバッグを、彼は「荷物」のひとことで店に預けた話
コラム
予約していたレストランの入り口で、彼が私のバッグにそっと手を伸ばしました。クロークに預けてくれるようでした。自分へのご褒美にようやく買ったお気に入りで、その日が初めて持ち出していったのです。ところが預け入れのカウンターで彼が口にしたひとことに、私の浮き立った気持ちはしぼんでしまいました。
「荷物」というひとこと
案内されたのは、落ち着いた雰囲気のお店でした。コートやバッグはクロークで預かってくれるそうで、彼は私のバッグを手に取り、自分のコートと一緒にカウンターへ向かいました。そのさりげない気遣いが、その時はうれしかったのです。
けれどカウンターで彼は、私のバッグを差し出しながら店員さんにこう言いました。
「すみません、この荷物お願いします」
荷物、と彼は言いました。受け取った預かり札を私に手渡すあいだも、私はその言葉を頭の中で何度も繰り返していました。
私には特別だったもの
そのバッグは、ずいぶん前から気になっていたものでした。値段を見ては迷い、何度も棚に戻して、それでも忘れられなくて、思い切って買ったのです。色も形も、自分の中でしっくりくる一つにやっと出会えた気がして、それを持って出かけられることが、ささやかな楽しみでした。
気づいてくれるかな、なんて期待もしていたのだと思います。それなのに返ってきたのは、荷物、というひとことでした。私が大切にしているものは、彼にとっては中身のわからない荷物のひとつにすぎないのかもしれません。
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言えなかった食事の席で
























