
要望を少しだけ変えて仕上げるのは、前に言われた一言が忘れられないから
コラム
要望どおりにしなかったのは、意地悪でも手抜きでもありません。
ただ、あの人の指先を守りたかっただけ。それを伝えそびれた自分に、今も少し後悔しています。筆をラベンダーのジェルに浸したまま、私は前回のお客さまの一言を思い出していました。
欠けやすいデザイン
ネイリストとして働いて、もう10年近くになります。半年ほど前から通ってくださっているお客さまがいて、その日も予約表にお名前がありました。席に着くなり、その人はSNSで保存した画像を見せてくれました。くすみラベンダーに、全部の指へストーンを散らしたデザインです。「この前のネイル、1週間で欠けちゃったんですよね」。そう言いながら、「全部の指にストーンを付けて、長さも長めにしたいです」と続けます。私は内心で迷いました。欠けて困ったと話す人に、いちばん欠けやすい仕上がりを渡していいのだろうか、と。
わがままな客だなんて、思ったことは1度もありません
この仕事を始めたころ、私は言われたとおりにだけ作っていました。長さも、石の数も、色みも、注文のまま。けれど、そうして仕上げた爪ほど、数日で欠けたと連絡が来たのです。あの申し訳なさを覚えてから、私は指の形や暮らしぶりに合わせて、少しずつ手を加えるようになりました。この日も、ストーンは負担の少ない2本に絞り、長さは指先になじむよう整えました。「もう少し長くできますか」と聞かれたとき、つい手を止めずに答えてしまいました。「このくらいのほうが、きっと長持ちしますよ」。それが本心でした。
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ありがとうございますの声が、いつもより短かった

























