
娘の昇進祝いを買いに出た俺が、新品を棚に戻して使い古しを渡した理由
コラム
渡した日
実家に帰ってきた娘の前に、俺は名刺入れだけを置きました。「使うか、これ」。娘は一拍おいて「……ありがとう。使う」と受け取ってくれました。礼の前の間で、期待していたものと違ったのだろうと察しはつきました。当たり前です。この革が何を守ってきたのか、俺はまだ何も話していないのだから。渡す前、あの紙を抜こうとして、やめました。抜いてしまえば、ただの古い革です。俺が支えられてきたものごと持たせるのが、俺にできる精いっぱいの応援でした。
そして...
後日、娘から電話がありました。「名刺入れの中に、紙が入ったままだったよ」。言いたいことはいくつもありましたが、口から出たのは「ああ。返さなくていい」だけでした。まあ、それで十分に伝わる革を渡したつもりです。翌週、俺は自分用の名刺入れを買いにもう一度売り場へ行き、今度は迷わずに済みました。胸にある新しい革の匂いには、まだ少し慣れないでいます。
(50代男性・会社員)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)



























