
常連客に凄まれる新人から目を逸らした俺が、それでも口を開いた理由
コラム
怒鳴られていたのは新人なのに、最初に目を逸らしたのは俺でした。長く店を支えてくれた常連を失いたくない。その気持ちで黙っていた俺が、焼き場から声をかけるまでの話です。
引き戸の開く音がして顔を上げると、開店当時から通ってくれている常連客が入ってきました。
俺は目で会釈だけして、焼き台へ向き直りました。
長く通ってくれた客だった
駅前で小さな焼き鳥屋を始めてから、長い年月がたちます。
あの人は開店した頃からの客でした。店を畳もうか迷った時期にも変わらず顔を出してくれて、そのことには今でも感謝しています。
ただ、店に慣れてくるにつれ、少しずつ要求が増えていました。
注文を急かしたり、混んでいても自分の好きな席へ座ろうとしたりすることがあります。気になってはいました。
それでも俺は、そのたびに大きな問題にはせず流してきました。
昔からの客だから。店を支えてくれた人だから。
そう考えることで、自分が注意できない理由を作っていたのだと思います。
新人に向けられた言葉
その日、あの人がいつも座るカウンターの奥には、すでに別のお客さんがいました。
新人は空いている端の席へ案内しました。
「すみません。今日はこちらのお席にご案内しています」
すると、「いつもの席だろうが」という声が聞こえました。
俺は焼き台の火加減を見るふりをしました。
新人がもう一度説明しようとしたところで、「席替われよ」と聞こえました。
先に座っている客を動かせということです。新人は「申し訳ありません」と頭を下げました。
それでも相手は、「だから替わってもらえばいいだろ」と続けます。
俺はすぐに止めませんでした。注意すれば、あの人はもう来なくなるかもしれない。そう考えていたからです。
結局その瞬間まで、俺は新人を守ることより、昔からの客との関係を壊さないことを優先していました。
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それでも口を開いた理由
























