
常連客に凄まれる新人から目を逸らした俺が、それでも口を開いた理由
コラム
それでも口を開いた理由
新人が頭を下げたまま、次の言葉を探しているのを見て、ようやく考えました。
ここで俺まで黙っていたら、この店では常連客の言うことが優先されると、新人にも、今座っているお客さんにも伝えることになる。
それは違う。俺は串を置きました。
「席は、うちが決めます」あの人がこちらを見ました。
「先に座ってるお客さんを動かすことはしません」言えたのは、それだけです。
常連客はしばらく黙ったあと、端の席へ座りました。
「……いつもの」
「はいよ」俺もそれ以上は何も言わず、注文された串を焼き始めました。
新人が困る前に止めるべきだった。もっと前に、あの人の振る舞いへ線を引くこともできた。そのことは、閉店後まで頭に残っていました。
そして...
閉店後、厚紙に、
「お席はスタッフがご案内します」
と書いて、カウンターから見える位置へ置きました。
新人には、
「困ったら、客を動かす前に俺を呼べ」
と伝えました。
あの常連客は、それからも店に来ています。
奥の席が空いている日はそこへ案内します。空いていなければ、別の席へ座ってもらいます。
昔から来てくれていることへの感謝と、何をしても許すことは別でした。
俺は相変わらず口数の多い店主ではありません。それでも、店で誰かが無理を言われているときに黙らないことだけは、自分の仕事だと思うようになりました。
(50代男性・飲食店経営)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)

























