
妻の家計ノートの最後のページには、俺が言えずにいたことが先に書かれていた
ライフスタイル
減らした振込のことを、妻は一度も口にしませんでした。ノートを開いて最初に探したのは、数字ではなく自分を責める言葉。それが、どこにもなかった話です。
換気扇の音の中で、俺はさっき口にした言葉を何度も聞き返していました。
言えないまま減らした3万円
結婚して3年、俺は会社員で、妻はパート勤め。生活費は毎月俺が共有の口座に振り込んでいます。
春に手当が外れて、手取りが減りました。妻に話す前に、振込の額を3万円減らしました。言えば心配させるし、言わなければ気づかれないかもしれない。その2つを都合よく足して、黙っていることを選んだのです。
妻は減った振込について、一度も口にしませんでした。気づいていないのだと思い込むほど、家で財布の話が出るたびに口調がきつくなっていきました。食事の後、妻が言いました。
「来月から、シフトを少し増やそうと思ってて」
足りない、と言われた気がしました。
「誰のおかげで暮らせてると思ってるんだ」
妻は席を立ち、2人分の皿を重ねて流し台へ運びました。水の音を背にして、俺は風呂場に逃げました。
定期入れの横にあった1冊
次の日、出かける支度をしていると、定期入れの横に見覚えのないノートが置いてありました。
「読んでからでいいから」
妻はそれだけ言って、流し台に向かいました。
開くと、家賃、光熱費、食費。右端に「夫」と「私」の欄があり、春からの俺の欄は、減らした後の数字がそのまま並んでいます。その隣で、足りない分を妻の欄が埋めていました。半年分、毎月です。
最後のページだけ、数字ではなく文章でした。
「足りない分は私が出しています。聞かないでいたのは、言いにくいことがあるのだと思ったからです」
最初に探したのは、自分を責める言葉でした。どこにもありませんでした。妻は気づいていて、聞かないでいてくれた。あの食卓で俺が投げた言葉の重さが、ここでようやくわかりました。
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聞かなかった、と妻は言った


























