
弟の荷造りに追われる実家の台所で、母はまた私に「あんたは心配いらない」と言った
ライフスタイル
電話の向こうで途切れた母の声
「もしもし」という母の声の後ろで、知らない部屋の物音がしていました。
「私のこと、どうでもいいと思ってる?」
前置きも何もない、そのままの問いでした。電話の向こうで、少しの間、何の音もしなくなりました。
「そんなわけないでしょ。お母さんね、」
そこまで言ったところで、弟の声が割り込みました。
「母さん、カーテンのフックってどこ?」
「ごめん、またかけるね」
通話は、それで切れました。
画面を伏せて、ガムテープの残りを最後まで剥がしました。中から出てきたのは、自分で詰めた食器ばかり。否定の言葉よりも、迷わず弟のほうへ向かった声のほうが、耳に残っていました。その日、母からの着信はありませんでした。
そして...
3日後、母から「元気にしてる?」とだけ届きました。「元気だよ」と返して、やりとりはそれきりでした。
引っ越しから半月が経ち、段ボールはすべて畳み終えました。仕事帰りに寄るスーパーの場所も覚え、困ることは特にありませんでした。母の言うとおり、私は心配いらない娘なのでしょう。
それでも、あの電話のことはふとした拍子に思い出しました。私にだけ同じ言葉をくり返してきたのは、なぜなのか。「お母さんね、」のあとに、母は何を言うつもりだったのでしょうか。
(20代女性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)





























