
彼女に「お疲れさま」と返せなかった夜。打っては消した30分が、最後に長文として届いた話
コラム
仕事で大きなミスをした帰り道、彼女からのメッセージが届きました。いつもならすぐに返せる短い言葉が、その夜はどうしても打てなかったのです。
既読をつけた瞬間に固まった
その日、俺は自分のミスで取引先に迷惑をかけ、上司から長く詰められた帰り道でした。電車の窓に映る顔は、俺自身が見たくないほど疲れていたのを覚えています。改札を出たところで、彼女からメッセージが届きました。「お疲れさま。今日どうだった?」。
開いた瞬間、既読のマークだけがついて、指が止まりました。いつもなら「お疲れ。普通だったよ」と打ち返すだけのことなのに、その「普通」の文字がどうしても押せなかったのです。
打っては消し続けた画面
「お疲れ。今日もまあまあ」と打って、消しました。嘘になると思ったからです。「ちょっと疲れた」と打って消しました。心配させてしまう、と思ったからです。「大丈夫」と打って消しました。一番嘘になる、と気づいたからです。
返信できないまま20分が経ちました。俺は家に帰ってもベッドに座ったまま、スマホの画面に文字を打っては消し続けていたのです。彼女がこの30分をどう感じているかは、わかっていました。わかっていたのに、嘘の言葉を送るほうが、もっと彼女に失礼な気がして指が動かなかったのです。
次のページへ
問い詰められた先にあるもの

























