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彼女を入口側に座らせたのには理由があった。記念日のサプライズを、僕は自分で台無しにしました

コラム

せっかく用意したのに、向かいの彼女の表情はどんどん硬くなっていきました。僕がこだわっていたものは、本当に大切なことではなかったのかもしれません。

メニューを開くふりをしながら、僕は何度も入口のほうへ視線を送っていました。向かいに座る彼女には、その理由を言えずにいたのです。記念日のために用意したものがうまく運ばれるかどうか、僕は気が気ではありませんでした。

奥の席を選んだ理由

お店を予約するとき、僕は店員さんにひとつだけお願いをしていました。食事の終わりに、用意しておいたデザートプレートを運んでほしい、と。彼女に気づかれないように合図を送るには、入口や店員さんの動きが見える奥の席に、自分が座る必要があったのです。

だから席に着くとき、僕は迷わず壁側に腰を下ろしました。彼女を通路に面した側に座らせることになるのは、少しだけ気がかりでした。それでも、彼女が後ろを振り返らなければ準備は見えません。きっと喜んでくれる、と心の中で言い訳をしていました。

うまく運ばせたくて

ところが、いざ始まってみると、僕はそわそわするばかりでした。合図のタイミングを見計らおうと、つい彼女の背後の入口に目が行ってしまいます。彼女が仕事の話をしてくれているのに、僕の相槌は「うん」「ああ」と短くなっていきました。

「ねえ、どこか具合でも悪い?」彼女にそう聞かれて、僕は「ううん、何でもないよ」とごまかしました。サプライズなのだから、ここで打ち明けるわけにはいきません。けれど、その「何でもない」のひとことが、彼女との距離を少しずつ広げていることに、僕は気づけずにいました。

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