
汗のにおいを隠すため香りを重ねた私、電車で聞いた率直な一言
コラム
斜め前の女性がハンカチを口元に当てて離れていくのが見えたあと、学生の声が届きます。名指しされないまま、私は降りる駅までの時間を長く感じていました。
家を出る前、私は鏡の前で香水のノズルを何度も押し込みました。
汗のにおいが怖かった
学生の頃、部活帰りの電車で「汗くさい」と笑われたことが、ずっと抜けませんでした。それからは、夏になるほど香りを重ねるのが習慣になりました。お気に入りはバニラ系の甘い香水で、制汗剤の上から手首と首筋、仕上げにワンピースの肩にも吹きつけて、ようやく玄関を開けられる気持ちになれました。接客の仕事柄、人と近い距離で話す場面も多く、汗のにおいを指摘される場面を想像するだけで、家に引き返したくなります。強すぎるかもしれないとわかっていながら、足りないことのほうがずっと怖かったのです。
届いてしまった声
その日の通勤電車で、斜め前にいた女性がハンカチを口元に当て、連結部の扉のほうへ移っていくのが見えました。偶然だと思いたかったところに、扉の近くにいた学生の声が重なりました。
「この電車、香水きつくない?頭痛くなりそう」
名指しではありません。それでも、かばんの持ち手を握り直した手のひらは汗ばんでいました。車内を見回す勇気はなく、窓に映る自分のワンピースの肩のあたりばかりを見ていました。降りる駅に着くまで、私は自分の肩口から立ちのぼる香りを意識してしまいました。
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香りで隠していたもの























