記念日の写真を消してほしいと頼んだ僕が、彼女に言えずにいた1つの理由

コラム

「違う」と打っては消すうちに、僕は自分の投稿一覧を開きました。彼女の写真は1枚もなく、それが彼女の画面からどう見えていたかに、そこで初めて気づきました。

玄関の鍵をかけた直後に、スマホが震えました。SNSからの通知で、彼女の投稿に僕の名前が付いていることを知りました。

「いいよ」と答えた写真

付き合って1年になる彼女は、日常をよく投稿する人です。僕の投稿は、数えるほどしかありません。店で彼女が「1枚撮ってもらっていい?」と聞いたとき、僕は「いいよ」と答えました。撮るのは構わなかったのです。載せるとは、そのとき考えていませんでした。

彼女の投稿を確認し、靴も脱がないままメッセージ画面を開きました。理由を打とうとして、書き出しが決まりませんでした。結局、送ったのは頼みごとだけでした。

「さっきの投稿、消してもらえない?」

「なんで?」

返事はすぐでした。僕は数分かけて打ち、ほとんどを消して、残った部分だけを送りました。

「ちょっと、載るの苦手で」

これでは何も説明していないことは、送った自分が一番分かっていました。

送れなかった本当の理由

次に届いた文面を、僕は玄関に立ったまま読みました。

「私と付き合ってるの、誰かに見られたら困るってこと?」

違う、と打ちました。そのあとが続きませんでした。消して、また違う、と打ちました。

前に付き合っていた人と、同じように店で撮った写真がありました。別れたあとも、その写真は相手のアカウントに残ったままでした。共通の友人たちは、集まりのたびにその画面を出して笑いました。僕が黙って笑い返すたびに、写真は消えないものだと思い知らされました。

だから、彼女との写真が残ることが怖かった。それだけの話です。けれど彼女に、前の恋人の名前を出すことも怖かった。比べていると思われるのが怖くて、聞いてもらえずに終わるのが怖くて、僕は頼みごとの形でしか言えませんでした。今頃、彼女はどんな相手を想像しているのだろうか。そう考えるほど、指は同じ言葉を打つことしかできませんでした。

入力中のまま、僕は自分の投稿一覧を開きました。彼女のことは1枚もありません。隠しているつもりはなかったのに、彼女の画面からは、そう見えていたはずでした。

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