
教室で私の絵にだけ「描き直してきてください」が続き、才能がないのだと思った日
コラム
洗い場で聞いたこと
ある回の終わり、ほかの生徒が帰ったあとも私は洗い場で筆をすすいでいました。先生が隣に立って、自分のパレットを水につけました。聞くなら今しかないと思って、私は蛇口を止めました。
「私、向いてないんでしょうか」
先生は何も言わずパレットを洗う手も止めません。しばらく経って、先生は私より早く洗い場を離れました。
「向いていない人に、描き直せとは言いません」
それだけ言って、先生は先に教室を出ていきました。私は呆然と洗い場の前に立ったまま、色がにじみ出続けている筆を眺めました。ほめられたわけではありません。それでも、その日出すつもりで鞄に入れていた退会の用紙を、私は出しませんでした。
そして...
次の回、先生は私の絵の前で足を止め、いつもより長く紙を見ていました。
「秋の展示に、1枚出してみませんか」
私は返事の前に、空の部分を指でなぞりました。4度描き直したあの八百屋の絵を家の壁に貼ったまま、今は新しい紙を広げています。
(30代女性・事務職)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)





























