
生徒の1人にだけ厳しかった私が、洗い場の前でやっと言えたこと
コラム
洗い場の質問
その回の終わり、ほかの生徒が帰った教室の洗い場に、その人はまだ立っていました。私は隣でパレットを水につけました。蛇口の音が止まって、その人が言いました。
「私、向いてないんでしょうか」
この2年、いつか聞かれると思っていた言葉でした。私はパレットを拭きながら、顔を上げずに答えました。
「向いていない人に、描き直せとは言いません」
そこで、なぜ直しを指示してきたのか言うべきでした。しかしそのまま、先に教室を出ました。階段を下りながら、これでは何も伝えていないのと同じだと分かっていました。それでも戻れなかったのは、自分の言葉への答えを聞くのが怖かったからです。
そして...
次の回、私はその人の絵をいつもより長く眺めました。直しを言う前に、先に言うと決めていたことがありました。
「秋の展示に、1枚出してみませんか」
看板の線が、最初の1枚とは別の人が描いたように変わっていることも、その場で伝えました。以来、私はその人に直しを言うとき、理由を1つ添えるようにしています。
(70代女性・水彩画講師)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに、相手側の視点を編集部が再構成したものです。個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)





























