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楽器がうるさいと匿名で苦情を出した私。届いた一通の招待状に、忘れていた音色が蘇った

コラム

招待状を受け取った夕方

ある夕方、自宅のポストに白い封筒が入っていました。差出人は書かれておらず、中の文字は丁寧で柔らかいものでした。

「先日のお手紙、ありがとうございました。お騒がせしていたこと、心からお詫びします。もしご都合よろしければ、一度だけお聴きいただけませんか」

責められると覚悟していました。けれど書かれていたのは、謝罪と招きの言葉だったのです。

迷いました。行けば、また気持ちが揺さぶられるかもしれない。けれど一度はきちんと顔を見せて謝らなければと思ったのです。小さな焼き菓子の箱を手土産に、日曜の午後、隣室のチャイムを鳴らしました。ドアが開いたとき、最初にこぼれたのは「お手紙、ありがとう」というひとことでした。

そして...

お部屋に通され、「あれを書いたのは私です」と打ち明けると、あの方はそっとうなずいてくれました。子守歌のような曲を一曲だけ弾いてくれた後、私は窓のほうを向いたまま、しばらく動けませんでした。やがて「本当は、音色を聞くと、諦めた昔の自分を思い出してしまって」と、声を絞り出すように打ち明けたのです。

あの方は「もしよかったら、また聴いていただけませんか」と、まっすぐ私を見て言ってくれました。それから私は週に一度、隣室にお邪魔するようになりました。紅茶を飲みながら練習を聴き、若い頃のピアノの話を少しずつしています。「またお邪魔してもいい?」と帰り際に聞くたびに、あの方は柔らかく頷いてくれます。

「うるさい」と書いた便箋を、思い出すたび恥ずかしくなります。けれどあの手紙がなければ、私は今もひとりで、捨ててきたものから目をそらし続けていました。

(60代女性・主婦)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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