
二人で選んだペアマグを片方だけ持ち出した彼。残されたマグカップを見つめ、彼の心が遠くに思えた話
コラム
片方だけ消えたお揃いのマグ。理由を聞いた私に、彼が返したのは「使いやすいんだよ」のひとことだけ。残された一つのマグを前に、彼の気持ちがわからなくなっていきました。
二つで一つだったはずのマグ
同棲を始めた記念にと、二人で雑貨屋を回って選んだペアのマグでした。彼は紺色、私はベージュ。色は違っても、同じ形の、私たちだけのお揃いです。目を覚まして最初の一杯を、それぞれのマグで飲むのが、いつのまにか二人の習慣になっていました。
だからこそ、棚に片方しかないことが、どうしても気になってしまったのです。帰宅した彼に、できるだけ軽い口ぶりで聞いてみました。
「ねえ、ペアのマグ、片方どこにいったの?」
彼は荷物を置きながら、こちらを見ずに答えました。
「ああ、それ、職場に持っていった」
「使いやすいんだよ」のひとこと
予想していなかった答えでした。あのマグは、私たちが二人で選んだもの。片方だけ持ち出すなんて、考えたこともなかったのです。
「二人で選んだやつなのに」
そう口にすると、彼はやっと振り返って、少しだけ面倒くさそうに言いました。
「使いやすいんだよ」
理由はそれ以上、説明してくれません。私が大切にしていたものを、彼はただの使いやすい食器としか思っていなかったのでしょうか。お揃いだと喜んでいたのは、私だけだったのかもしれない。そう思いながら、私は小さくうなずいて、その場を離れました。
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残されたベージュのマグ

























