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「使いやすいんだよ」彼女に嘘をついてまで、俺がペアマグを職場へ持っていった理由

コラム

お守りのつもりで持ち出した、二人で選んだペアマグの片方。けれど彼女には、二人の何かが欠けたように映っていました。

新しい部署で、ひとりだった俺

部署を異動してから、職場での毎日が重くのしかかっていました。やり方も人間関係も一から、頼れる相手もいません。気を張りっぱなしで、家に帰る頃にはくたくたでした。そんなとき、ふと思いついて、家を出る前に自分のマグを鞄に入れました。彼女と二人で選んだ、紺色のマグです。

慣れない給湯室でそれにコーヒーを注ぐと、彼女と過ごす何気ない時間が、少しだけ近くに感じられたのです。情けない話ですが、あのマグは俺にとって、知らない場所で踏ん張るためのお守りのようなものでした。

本当の理由が、言えなかった

あるとき、彼女に聞かれました。

「ねえ、ペアのマグ、片方どこにいったの?」

荷物を置きながら、俺はとっさにこう返しました。

「ああ、それ、職場に持っていった」

彼女のことを思って持ち出したなんて、面と向かって言うのは、なんだか気恥ずかしかったのです。

「二人で選んだやつなのに」

彼女の声に、戸惑いがにじんでいました。本当のことを打ち明ければよかったのに、やっと振り返って俺の口から出たのは「使いやすいんだよ」という、心にもない一言でした。彼女の表情がふっと曇ったのはわかっていましたが、お守りにしているなんて照れくさくて、コーヒーをすするふりでごまかしました。

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