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好きな人にそっと置いた差し入れ。お礼を言われていたのは、私ではなく先輩でした

コラム

まだ人のいないフロアで、私は買ってきた缶コーヒーを彼のデスクにそっと置きました。残業続きで疲れている彼に、ひとことも告げずに渡したかったのです。名前は、あえて書きませんでした。それが自分を傷つけることになるとは、思っていませんでした。

ひとことも言えなかった差し入れ

彼は同じ部署の同僚で、私がひそかに想いを寄せている人でした。ここ数週間、納期に追われて遅くまで残っている姿を、私はずっと気にかけていました。

いつだったか、彼が私に、徹夜続きで微糖の缶コーヒーばかり飲んでいると話していたことがあって。だから私は同じ銘柄を一本、小さなお菓子と一緒にデスクへ置いたのです。

名前を書けば、想いまで伝わってしまう気がしました。喜んでくれたらいい。ただそれだけの、ささやかな気持ちでした。

笑顔のお礼は、私のほうを向かなかった

人が増えてきたフロアで、彼が缶コーヒーに気づいたようでした。誰かを探すようにあたりを見回す彼の前に、ちょうどお菓子をよく配ってくれる先輩が通りかかりました。彼は明るい声で言いました。

「先輩、差し入れありがとうございます」

先輩は「いえいえ、いつものことですから」と笑って返しています。そして彼は続けました。

「こういう気遣いがさらっとできる人って、いいですよね」

その言葉は、自分のデスクにいる私の耳にまっすぐ届きました。ほんの短い間、彼と目が合った気がしましたが、視線はすぐに逸れていきました。

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