
彼女の作品を一番きれいに見せたくて展示台を下げた。なのに本心が言えず、そっけない態度をとった僕
コラム
人だかりを、遠くから見ていた
展示会の当日、僕は会場の隅から、彼女の展示台のほうをうかがっていました。低い台の前には、来場者が次々と腰をかがめ、彼女の部屋をのぞき込んでいます。背の低い子どもたちも、夢中で中を指さしていました。
やっぱり、この高さで正解だった。そう思う一方で、どこかすっきりしない気持ちが残っていました。作品を一番いい形で見せることはできたのに、肝心の彼女には、何ひとつ本当のことを伝えられていない。あのそっけない一言のせいで、彼女はきっと、自分の作品が低く扱われたと思ったままなのです。
ほんの少し正直になるだけで、彼女を悩ませずにすんだはずでした。それができなかったのは、作品のことより、自分が傷つくのを恐れた僕の弱さでした。
そして...
人だかりが途切れたころ、僕は彼女の作品をもう一度見に行きました。低い台の上で、小さな部屋は変わらず光をためていて、やっぱりこの人の作るものはすごいなと、あらためて思いました。
今度こそ、ちゃんと伝えようと思います。低くしたのは、きみの作品が一番きれいだと思ったからだと。そっけない態度をとったことも、きちんと謝りたいのです。
言葉ひとつで人を悩ませてしまうなら、言葉ひとつで、その人を笑顔にすることもできるはずだから。次に会ったら、今度は逃げずに話しかけよう。そう決めて、僕は会場を出ました。
(30代男性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)



























