
本当は別の花束を隠していた。初めて行く彼女の部屋で、僕は前の住人宛ての花を渡してしまった
コラム
駅前の花屋で選んだ花束を、僕は紙袋に隠すように抱えていました。初めて彼女の部屋を訪ねる日で、どうしても直接渡したいものがあったのです。けれどマンションの入り口で見つけた一つの花束のせいで、僕は思いがけない遠回りをしてしまいました。
ずっと前から決めていた、彼女への花束
彼女と付き合って半年、初めて部屋に招いてもらえることになり、僕は何日も前から渡す花を考えていました。気取りすぎても変だし、地味すぎても寂しい。花屋の店先で長いこと迷って、彼女が好きだと言っていた色の花束をようやく選びました。
正直に言えば、花を渡すなんて柄じゃないと自分でも思っていました。それでも、初めての日くらいは、ちゃんと気持ちを形にしたかったのです。紙袋の中で花がつぶれないように、僕は道中ずっとそれを抱えていました。
入り口に残されていた、前の住人宛ての花
彼女のマンションに着いたとき、入り口の集合ポストの脇に、花束が一つ置かれているのに気づきました。宛名を見ると、前にこの部屋に住んでいた人の名前で、受け取り手がいないまま忘れられているようでした。
そのまま枯れていくのかと思うと、なんだか見過ごせませんでした。少し考えて、僕はその花束も一緒に持って上がることにしたのです。今思えば、これが全ての始まりでした。
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肝心の花束を、出せないまま

























