
席を譲られるたび、あの笑い声を思い出した私
コラム
怒鳴った直後から後悔は始まっていました。
降り際に絞り出した「あなたが悪いんじゃないの」は、善意を踏みにじった自分からの精1杯の言葉でした。電車の座席が1つ空いているのが見えると、私は必ず目をそらします。
あの日の電車で
定年を迎えて2年。時間に余裕ができて、平日に電車で出かけることが多くなりました。あの日も買い物帰りの電車に乗り込んだところ、ドア横の席に座っていた若い女性がすっと立ち上がりました。
「よかったら、どうぞ」
その声を聞いて、考えるより先に口が動いていました。
「老人扱いしないでちょうだい」
自分でもびっくりするほど大きな声でした。若い女性が吊り革に手を伸ばし、こちらに背を向けたのがわかりました。
座れなくなった理由
1年ほど前のことです。同じように電車で席を譲ってもらい、「ありがとうございます」と頭を下げて座りました。すると近くに立っていた若い男女の声が聞こえてきたのです。
「老害って自覚ないんだ」
小さな声でしたが、はっきり届きました。2人は私のほうを見て笑っていました。降りる駅までの数分間、私は座ったまま買い物袋の取っ手を握りしめ、顔を上げられませんでした。あの日から、誰かに席を譲られるたび、あの笑い声がよみがえるようになりました。座ることが、自分が「老害」だと認めることのように感じてしまうのです。
次のページへ
ガラスに映った顔

























