
「この電車、香水きつくない?頭痛くなりそう」真夏の車内で、私が隣の車両へ移った理由
コラム
ハンカチを口元に当てて移った隣の車両で、学生の遠慮のない一言を思い返します。責める資格と後ろめたさの間で、私が選んだのは避けることだけでした。
冷房の風が回るたび、どこからか届く濃いバニラの香りが、真夏の車内に層を作っていました。
逃げ場のない甘さ
私は昔からにおいに敏感で、洗剤も柔軟剤も無香料のものを選んできました。香りつきの制汗剤を職場でもらったときも、結局、使わないまま引き出しに入れたままにしていたほどです。その日の通勤電車は満員に近く、ドアの横に立った途端、重たい甘さが押し寄せてきました。香りの主はすぐにわかりました。斜め前に立つ女性のワンピースの肩のあたりから、バニラのような香りが絶え間なく広がっていたのです。冷房は効いているのに、こめかみの奥がじんと重くなり、額のあたりに嫌な熱がこもっていきました。
ハンカチと後ろめたさ
私はハンカチを口元に当て、連結部の扉のほうへ少しずつ移動しました。香りから距離を取りたいだけなのに、当てつけに見えていないかが気になって、視線は窓の外へ向けたままでした。ドアが開くたびに入ってくる真夏の熱気と、車内の甘さが混ざって、ハンカチの内側でも呼吸が浅くなります。扉の前まで来たところで、近くにいた学生の1人が連れに言いました。
「この電車、香水きつくない?頭痛くなりそう」
遠慮のない声でした。私は内心でうなずきながら、あの女性の耳にも届いただろうかと考えていました。
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隣の車両で考えたこと























